落とし物を預かってHMVほか意外な気付きがあった

路上に落ちていたあるものからちょっとした刺激をもらった話です。

 

1.イントロ

 

先日、路上で落とし物を拾い処理に迷った末、思い立って交番に届けた。

ものはワイヤレスイヤホンで、「L」が刻印された左耳用1個のみ。

ケースはない。

photo / Unsplash(写真はイメージです)

 

 

2.ドン引かれる声掛け

 

正確に言えば自分が拾ったのではなく、拾った人がそれをOK型の指で突き出し「あんたに預ける」、と。

職場の先輩だけに断り切れず渋々受け取った。理屈もへったくれもない。無理やり押し付けられた格好だ。

 

曰く、落とし主は自転車に乗った女子高生で、呼び止めようと声を掛けたら一瞬振り向いたがそのまま行ってしまったという。

件の先輩は特別怪しい人相風体ではないが、さすがに人気の少ない裏路地でおっさんに突然呼び止められたら大人でも引くだろう。

 

 

3.主人の声に耳を傾ける犬

 

閑話休題さてみなさん

預かったそいつはクリーム色の割と地味なやつで、眼を眇めて見ると蓄音機のラッパ管に犬が耳を傾けている例のマークが印刷されている。

 

“His Master’s Voice” これだ。

 

オーディオの老舗日本ビクターが使っていたそのマーク。かつては街中の電気店やレコード屋の店頭によくあった。

最近は見かけなくなったマークだし、懐かしかったのでついでにググってみた。

 

 

4.HMVにはストーリーがあった

 

可愛がってくれた主人を失った「ニッパー」という名のフォックステリア犬。彼が、残されていた亡き主人の声に懐かしそうに耳を傾けるの図、とのこと。

考えてみれば音響機器や録音媒体のシンボルマークとしては、郷愁漂うストーリーの奥行きもあってこれほど相応しいものも珍しいだろう。

 

近頃のマーク類といえば、イラレやフォトショで作るせいか味も深みも感じないものが多い。大阪万博のそれにいたっては何が何やらですな、知らんけど。

 

 

5.そうだ、交番行こう

 

そして翌日。仕事の退けた夕方。

酷暑の熱気が残る中、片方だけのイヤホンを持って駅前の交番に急いだ。

対応してくれたのは、パトロールから戻ったばかりの若い女性警察官だった。

 

まだ息を切らしている警官にイヤホンを差し出し簡潔に事情を話すと、あっさり「お礼とか電話とか求めたりします?」と問われ、場に慣れていないこちらは「!?」となった。

束の間迷い(電話くらいは……)と思ったが、若い人に何か強いるのも気が引けたので結局断った。

 

 

6.どうぞお引き取りください

 

するとどうだろう、「それでは確かにお預かりしましたので、どうぞお引き取りください(意訳)」と締めの言葉を告げられ、名前すら聞かずに追い払われ……もとい、いともあっさり辞去を求められた。

(なにそれ)と思ったものの、忙しい派出所の警察官としては必要以上の情報は求めず、数多ある拾得物届出の1件として事務処理を急ぎたかったのだろう。

 

 

7.足取り軽く交番をあとにした

 

公務とはいえ汗を拭きながら一市民の話を傾聴してくれた若い警察官に悪い印象はなかった。

こちらは余計なものを手放してモヤモヤを持ち越さずに済むし、ビールが恋しい時間帯でもあったので短時間で済んだのはありがたいといえばありがたい。

そんな次第で、何グラムか身軽になって足取りも軽く駅前派出所をあとにした。

 

 

8.まとめ

 

本稿のポイントは、

  1. 小遣いが少ないであろう女子高生の手に落とし物が戻ることを切に願いう。
  2. 久々にHMVニッパー君のロゴマークに出会って、若いころのオーディオ趣味がぶり返すかもしれない。
  3. 警察官の働きぶりを間近に見て、「駕籠に乗る人担ぐ人そのまた草履を作る人」なる諺を思い出した。

そんなところです。

 

 

9.ちょっとした気付き

 

今回のことで、夕方の人通りが多い時間帯にワンオペでパトロールや交番での接遇、事務処理までこなす若い警察官には頭が下がりました。

 

そんな思いに交番を出るとき、「毎日、お疲れ様です」と割とフォーマルに伝えると彼女、仕事中に笑い慣れていないのか、ぎこちない半笑いを浮かべていましたっけ。

 

 

それと、最近はずいぶん値の下がったワイヤレスイヤホンですが、不注意がもとで買い直すことになれば若い人にとってはそれなりにたいへんでしょう。

これが今回、交番に届ける気になった一番のモチベーションだったかもしれません。

 

我が身を振り返れば、iPhoneやAirPods、補聴器など落とたり置き忘れたりしそうなものを毎日持ち運んでいます。

日々用心するに越したことはない、と思った出来事でした。

 

おしまい

 

 

 

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