5月中旬に九州南部から中国、四国、近畿、東海地方まで相次いで「梅雨入りしたとみられる」と発表がありました。
例年になく早いと世間は驚き、次いで関東・甲信越、北陸地方も……、と構えていたらその後、今日の今日まで何の音沙汰もありません。
まぁ別に、農家さんのように待ち望んではいないし、カエルのように雨好きではないからいいんですけど、米が主食の日本人としては自分の地域に例の発表がないとどうも落ち着きません。
……ということで、5月は2冊。こんなペースが半年続いています。
伊坂幸太郎「逆ソクラテス(集英社)」★★★★★
「いじめ」「決めつけ」「先入観」といった人間の業のようなものを軸にした連作短編集。といってもドロドロではなく著者らしい達観の風情で話は進む。
各編とも、とある小学校を舞台にしているが、登場人物同士の相関はほぼない。著者の恩師がモデルという磯憲先生だけが折に触れて登場し重要な影の軸となる。
読み終わってすぐには感想が浮かばず放ったらかして細かなところが怪しくなってしまったが、改めて軽く読み返してみると各編とも独特のユーモアを背景にジワッと来る深いものが込められている。
人は、何かをきっかけにして、或いは誰かの影響を受けて変わるものだし、また自らの意志で変わることも出来る。子供はもちろん、大人だって……
著者が「20年この仕事を続けてきた一つの成果」と本作を評しているように、(たいへん僭越ではありますが)今まで読んだ作品より大人の目線を強く感じた。
先述のように横の相関はほとんどないが、時間軸上の相関が本作2番目の魅力になっている。特に「逆ワシントン」のラストには温かい想像が膨らんだ。
……たぶんあの人だろう。
そして魅力の1番は、賛同がもらえるかどうか分からないが、「スロウスタートではない」の『お願いです、ドン・コルレオーネ』だった。
小学生の頃を思い出してニヤリとしてしまう。
中町信「模倣の殺意(創元推理文庫)」★★★☆☆
新進の小説家坂井正夫が、青酸カリで服毒死した。
状況からして才能の無さを儚んでの自殺と見られたが、疑問を持った出版社勤務の中田秋子とルポライター津久見伸助がそれぞれ別のルートから調べるうち、ある陰湿な疑惑が浮かび上がる。
昭和40年代に書かれた推理小説で、あるトリックによる急転直下のどんでん返しが仕込まれている。そのトリックが使われたのは、日本では本作で初めてだという。
普段、純粋な推理小説はあまり読まないが、今回本作を読んでその理由を再認識することになった。
私の場合、ストーリー中に仕掛けられた謎やトリックのテクニカルな面にばかり集中してしまい、小説そのものが上の空になってしまうのだ。
上梓当時は新鮮だったであろう日本初のトリックは、今となっては新鮮さに欠けるし、全般に漂う昭和感にもチープさが否めない。
平易な文章表現で読み易すかった点と天秤にかけてマイナス2星とした。
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