最近読んだ本_2020/07

見えない脅威、コロナウイルスのおかげで大変な世の中になってしまいました。

本日の東京の感染者数は367人。最高記録を更新したうえ、この先どこまで増えていくのか見当もつきません。

それとシンクロして一般国民の危機感が高まっているかと思いきや、第一波のときと違って街中の人出はあまり変わらないように筆者には見えます。表情からも深刻さは感じられないし。

 

楽観的に捉えれば、政府と行政の無策を一方で嘆きつつ、これまでの経験値を自分たちの行動に自主的にフィードバックし、全体としてソフトに収束を図れるのが日本人の強みだと思うのですがどうでしょう。

甘いかな・・・

 

さて、7月をそんな話で締めくくるのは気が引けますが、読書的には充実した月間でした。

今回は3冊だけ取り上げますが、実はとっても面白い4冊目の途中なんです。新幹線の車中で二人と一組の殺し屋が攻防を繰り広げる話。

書きたいけど、来月に回します。

 

西加奈子「さくら (小学館文庫)」★★★☆☆

著者の初期の作品である。

細かいあらすじ(もろ矛盾)はこの際省略するが、一言で言えば大阪在住のとある5人家族とペットの雑種犬サクラの物語。

マジ濃厚だよ、という印象の小説だ。

 

以下、正直に感想を書いたら辛口になってしまったが、すごい作家、すごい作品という前提なのでご容赦願いたい。

(以降ネタバレありです)

まず全般を通して、渾々と泉のように湧き出ててくる、あるいは鋭いノズルから青空に勢いよく吹き上げるような言葉の数々と、青さを残しながらも煌びやかな、まるで踊るような装飾的表現に圧倒される。

小説を書くのが、ストーリーを文字するのが心底楽しくて仕方がない時の作品と確信した。創作のエネルギー、しかも素直で自然なそれがダイレクトに伝わってきて怖いくらいだ。

 

そうした華やかさの反面、テーマ性には欠けやや散漫な印象も残る。

お話自体には陰鬱な側面があるし、セックスや同性愛、近親相姦をソフトながら堂々と扱っているが、それ自体をテーマにはしていいない。

逆にそれらを無かったことにしてなんとか明るく終わらそうとするラストに、若干の痛さを感じて惜しいと思った。

 

もう一歩突っ込めば、ソフトにしよう、明るい作品にしようとするがために投入したのがタイトルにもなっているサクラなのだとすれば、それはちょっと可愛そ過ぎだろう、と指摘しておきたい。

 

じゃあ、テーマはいったい何なんだという話に戻ると、私の読解力では今ひとつはっきり掴めなかった。 

強いて言えば家族愛、又は家族の絆?

散々けなした挙句にそんな陳腐なまとめしかできねーのかよ、と怒られそうだが、先月読んだ「サラバ!」と共にかなりのインパクトを受けたので、ここはひとつ重ねてご容赦願うとして、今後もこの作家には注目する、それだけの価値がある作家ということでまとめとしたい(大汗)。

 

ちなみに本作から直木賞作の「サクラ!」を上梓するまで9年経っている。同じように家族を軸に置いた両作品を続けて読んだことで、作家としての成長をより強く感じられた。

あと、著者が書くベタな大阪弁が、かなり心地良かったです。

 

 

柚月裕子「孤狼の血  (角川文庫)」★★★★★+★

柚月裕子「凶犬の眼  (角川文庫)」★★★★★

女性作家による暴力団vs警察の攻防をシリアスに描くサスペンスものだ。今回は、三部作のうち文庫化されている二冊目までを読んだ。

主役は、一流大学出にもかかわらず何故か叩き上げの警察官を目指す日岡秀一と、筋金入り本物の叩き上げで暴力団幹部からも一目置かれるベテラン刑事大上章吾の二人。

   

 

(以降ネタバレは極力控えますが、未読の方は読まないほうがいいです)

はっきり言って一冊目で度肝を抜かれた。

初めのうちは、日々律儀に勤務日誌を付けるひ弱なキャラクターに見える日岡だが、刑事二課赴任にあたり実は困難な密命を背負っていたり、もう一方の大上も悪徳一本やりと思いきや、実はヤクザの内情に精通し筋を通すことで裏社会のバランスを保とうとする信義に溢れる男だった・・・、というような深くて濃いバックグラウンドの中で話は進む。

 

そして後半、「えっ、こんな展開あり?、三部作なのに…」という流れになるが、そこに全体を引き締める大きな仕掛けをズドンと提示して二作目に繋げる。

また、各章の冒頭に置かれている日岡の勤務日誌にも仕掛けがある。大上から受ける有形無形の薫陶によって日岡の価値観が大きく変わったことを日々の記録に掛けて最後の最後に明かす。

実に巧妙な展開だ。

 

個人的には、大上の暴力団やヤクザものに対するポリシーにも共感した。

いつ、どこの人間社会でも一定数は生じる「はみ出しもの」を端から殲滅するのではなく、一般人に悪影響を及ぼさない範囲で自己完結できるよう飴と鞭を以って取り計らう、それがオレの仕事だと。

正義、信義、仁義をわきまえた男は、ヤクザだろうが公務員だろうがかっこいい。

 

小説としての文章表現や読みやすさも抜群だ。暴力団の価値観や内部事情を実によく理解して書かれているので臨場感もたっぷり。そうかと言って変に生々しすぎることもない。

一冊目を動とすれば、二冊目は静と言えよう。こんな話だったよ〜、良かったよ〜と書きたいがやめておく。

失礼ながら女性の書いた小説とは思えないようなハードな読み応えにぐいぐい引き込まれ、二冊読了はあっという間だった。三冊めの文庫化が待ち遠しい。

 

 

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