最近、お酒がブームのようですね。
本日は、タイトルのとおり日本酒と清酒について考えてみました。
0.前置き
「酒」(本稿ではいわゆる「日本酒」の意味です)に関してはいろいろな呼び名がありますが、昨今は居酒屋で「オススメの清酒は?」と尋ねると、若い店員さんから「日本酒でよろしかったですか?」とちょっと引っ掛かる日本語で逆に質問を返されたりするくらい「日本酒」という呼び方がメジャーになっています。
一方、古き良き時代の町や人々が登場する古典落語に出てくるのは、「酒」かせいぜい「清酒」という言い方ではないでしょうか。長屋の熊さんが女房のお舟に「おい、日本酒買ってこい!」とは絶対言わない気がします(筆者の思い込みかもしれませんが)。
そんなこんなを考えていたら「日本酒」と、おそらく先輩格であろう「清酒」という呼び名のどちらが正しくて、世間的にはどちらが多用されているのか?、法律的には?、などいろいろ気になってきましてね。
1.法律的にはどうなっている
まず法律面から。
酒類全般の呼び名に関しては、酒税法と酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(長ったらしいので以下「組合法」と書きます)にいろいろ規定があります。
お酒の税金について定めている酒税法では、第2条、第3条に諸々の用語が定義されていて、酒類(アルコールの入った飲み物全般)を発泡性酒類、醸造酒類、蒸留種類、混成酒類の4種に大きく分類しています。
その中で「酒」に関しては、醸造酒類の筆頭に「清酒」という呼称を挙げ、以下同法の中では「清酒」で通しており、「日本酒」という呼称は使われていません。
続いて組合法、同法施行令・施行規則では、酒瓶や容器などへの表示方法(ラベルの記載など)を規定する中で、酒税法と平仄を合わせて「清酒」を呼称として使っていますが、そのほかに例外として「日本酒」も呼称に挙げ、その呼び方も一般に定着しているから使って良い、と認めています。
つまり「酒」の場合、法律上の呼び名はあくまで「清酒」ですが、「日本酒」という呼び名も広く使われて定着しているので、酒瓶などには「清酒」のほか「日本酒」と表示して販売してもOKだよ、としているのです。
ちなみに焼酎の場合、法律上は「連続式蒸留焼酎」又は「単式蒸留焼酎」という硬い名前で定義し、我々になじみ深い「焼酎甲類」、「ホワイトリカー」(前者)、「本格焼酎」、「泡盛」(後者)などをやはり例外として認めています。
なるほど直接口に入る飲料ですから、紛らわしかったり間違えて飲んでしまうような表示にならないよう一義的には縛る一方、例外という扱いで実際に使われている呼び名も認め、実情に合わせて幅を持たせているということですね。
2.酒蔵や業界団体はどうか
一方、酒造メーカーや酒類関係の業界団体はどう扱っているでしょうか。主なサイトの会社概要や団体概要からざっと拾ってみました。
【酒造メーカー】
- 菊正宗酒造(株):清酒、日本酒、お酒
- 黄桜(株):清酒
- 大関(株):清酒
- 白鶴酒造(株):清酒
- 両関酒造(株):お酒
- 新政酒造(株):日本酒、お酒、酒
- 八海醸造(株):清酒
- 月桂冠(株):清酒
- 賀茂鶴酒造(株):清酒、お酒
- 旭酒造(株):清酒、お酒、酒
やや大手に偏りましたが、各蔵元さんでは「清酒」が優勢で、やはり伝統的な呼び名がお好みのようですね。確かに発酵した醪(もろみ)から抽出する澄んだお酒ですから、字面のイメージはぴったりかもしれません。「日本酒」という表記を使っている蔵元では、清酒のほかに濁り酒やどぶろくを製品化しているとも考えられます。
【業界団体】
- (独法)酒類総合研究所:清酒
- (公財)日本醸造協会:清酒
- 純粋日本酒協会:日本酒、清酒
- 日本吟醸酒協会:日本酒
- 日本酒造組合中央会:清酒、日本酒
- 長期熟成酒研究会:清酒、日本酒
- (一社)awa酒協会:日本酒
- 酒米研究会:酒類
こちらは、混沌として統一性がありません。各々の団体に独自の趣旨と活動があると思いますが、特に呼び名にはこだわっていないのでしょうか。
3.Wikipediaや英語表記は
ウィキペディア日本語版には「清酒」という項目はなく、「日本酒」という項目中で「合成清酒」や「どぶろく」と並べて「清酒」を詳しく説明しています。そこには何の迷いも感じられません。これは、ウィキペディア自体が2001年の設立だし、比較的若い世代の方が編纂しているからではないかと推測しました。
もう一つ世間的な指標となるGoogle検索のヒット数ですが、こちらも「日本酒」が圧勝です。やはり現在では一般的な呼び方になっているのですね。
参考として「酒」の英語表記も調べてみたところ、Google翻訳では「日本酒」、「清酒」とも「sake」と出ました。
また、(独法)酒類総合研究所が、酒類の英語表現リストを公表していました。財務省所管の団体ですから、国としての一つの目安にはなるでしょう。
その中で「清酒」は「sake」、「焼酎」は「shochu」、「泡盛」は「awamori」とされています。個人的にイメージしていたのは「rice wine」だったので、変に説明的にならずシンプルで潔いし、とても良い英訳だと思いました(笑)。
4.まとめ
「酒」とは、正しい正しくないはさて置き、法律上は「清酒」が正式な呼称で、「日本酒」という呼び方や表記はあくまで例外扱いです。
ただ現時点では、「日本酒」という呼び名は「清酒」を押さえて一般世間的には優勢のようで、それは筆者の肌感覚とも一致します。
また、「日本酒」、「清酒」のそれぞれ意味するところは、日本の米を主な原料とする醸造酒には、醪(もろみ)を完全に濾して清く澄んだ「清酒」、酒粕分が残っているため澄んでいない濁り酒やどぶろくなどがあり、それら全部をひっくるめて指すのが「日本酒」という呼び名・・・
大ざっぱにはそんなふうに言えるのではないでしょうか。
5.余談
エッ?私ですか?
個人的には「清酒」又は単に「酒」という呼び方が好きですね。
筆者はその昔、改まった場では「清酒」と言うようにと飲兵衛の大先輩から(かなりくどく)教わり、それが今でも刷り込みとして残っているのです。
また、日本人が日本国内で日本古来の酒を言うときに、わざわざ自国の名前を付けて呼ぶこともないでしょう。外国人に勧める際のフレーズもシンプルに「Do you like sake?」で問題なさそうですしね。
お酒だけに理屈でないところがあってもいいじゃないかと(笑)。
さて、ここまで頑張って書いて少し疲れました。旨い酒でも飲んでリラックスするとしましょう。