暑くなく寒くもなく空気もカラッとしていて良い塩梅の時期ですね、って先週なんか寒くて冬物のスーツで出勤していましたが。
・・・とは言え、一年中で一番気候の良いこの季節に感謝しながら書評を書くとします。
4月は4冊手に取りました。
- 赤坂真理「東京プリズン」(星評価なし)
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日本で落ちこぼれた16歳のマリが、アメリカで天皇の戦争責任についてディベートするという話、・・・らしい。
けっこう期待して読み始めるも、現実と回想が混在したり時制が読み取れなかったりして、難しいのか高尚なのかよく分からないうちに途中棄権となった。
思い起こせば、「スターメイカー(O.ステープルドン)」のような難解なSFを憑かれたように読んだ頃が懐かしい。根気がなくなったのではない。沢山の本とかかわりたくなったのだ。そういうことにしておいてもらおう(汗)。
- 荻原浩「神様からひとこと」★★★★★
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私ごとだが、2013年後半から仕事や両親の介護で余裕がなくなり、この書評シリーズを2年ほど中断していた。月一の定期投稿も辛かったのだ。
巷では「サラリーマンへの応援歌」、私的には「疲れた時のエナジードリンク」と思う本書。手に取ったのは、その時期以来2度目である。
再就職先の中堅食品会社で入社早々ひと騒動やらかし、リストラ要員の待機場所「お客様相談室」に左遷された佐倉涼平。癖のある上司、同僚に囲まれて「神様」である顧客の皆様からの理不尽なクレームに対応しながら次第に自分の生き方や大切なものを取り戻して行く。
とにかく思いっきり笑えて元気の出る小説だが、決して楽しいだけの娯楽作品ではない。後に直木賞を取った著者は、現役サラリーマン時代の経験から「会社や仕事なんかのために死ぬな」、「死ぬほどつらいのは、生きてる証拠」との思いを本作に込めたそうだ。限界寸前まで仕事をした人のユーモアだから心底共感して笑えるしホロっとくるのだ。
私の場合も前回読んだ時には、涼平やトンデモ上司の篠崎に背中を押したり摩ってもらったりしたのかも知れない。そこいくと今回はまぁ、あれだ。単純に楽しい本が読みたかったから再読したまでで、人生に疲れたのではない、・・・と思う。
- 吉村明「東京の戦争」★★★★★
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東京で生まれ育った著者が、十代中頃に下町日暮里で身をもって経験した戦中戦後の日常を淡々と描く。ほぼ親の世代の体験談だし生まれ育った地域の隣町が舞台なので、昭和30年代以降しか知らない私でも実感を持って読めた。
異常な時代をたくましく生き抜いた人、はからずも家族を失った人、命を落とした人・・・。戦争の時代を走り抜けたたくさんの市井の人々の息づかいと実像がヒシヒシと迫ってくる。
戦後70年以上経ち、世間的にも個人的にも記憶が風化し忘れがちなこの時期に、貴重な記録でもある本書に出会えて良かった。
- 荻原浩「なかよし小鳩組」★★★★★
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ユニバーサル広告社シリーズの第2弾。 今回舞い込んだ仕事は、暴対法施行をイメージ改革で乗り切ろうとするヤ印団体のCI戦略一式。常に自転車操業の零細ユニバーサル広告社の面々が、強面なるも久々の大口顧客である「小鳩組」のために大奮闘する。
さて、確かにサラリーマンが奮闘する話ではあるが、この作家の場合そう単純に終わるわけはない。そこには胸が疼くような「人間再生物語」が仕込まれていて、両A面の趣なのだ(わっかるかな~)。
仕事はできるがバツイチでアル中寸前、ダメ人間寸前のコピーライター杉山が、別れた女房に引き取られた7歳の娘早苗に刺激されながら、前を向いてちゃんと生きていこうと努力する再生物語その1。
サッカー少女の早苗が超エキセントリックで楽しい。
高校で教師を殴ってグレた後、小鳩組に拾われた陸上国体レベルの勝也が、共に市民マラソンに出場しようと衰えたに身体に鞭打ち練習に励む杉山に引っ張られ、生きる目標を徐々に取り戻す再生物語その2。
あぁ、勝也のその後で一編書いてください!
いつもに増して各登場人物の個性が際立ち、単に面白いだけに留まらず厚み深みも感じさせるストーリー。ますますこの作家の深みにはまりそうだ。