夜のバス停にて。
写真とはほとんど関係ない話です。
1.震える小学生
昨夜、帰宅のバス待ちで最寄駅の始発バス停に並んだときのこと。
そこはちょうど高層ビルから吹き降ろす風の通り道になっていて、昨夜も冷たい北風が強く吹き付けていた。
私の前には塾帰り風の小学校3〜4年生に見える男子、仮称A君がどういう訳か薄着で立っていた。
ジャンパー無しで襟ぐりもスカスカ。見るからに寒げだ。
しばらくするとA君は肩をすぼめて震え出す。さらに足踏みとジャンプも始まった。
見かねて「寒いかい?」と声を掛けるとすぐに「ウン」と返ってきた。聞くまでもない。
(バス到着まであと10分か……)
2.黒いコートの男
彼の一人前は黒いコートを着た中高年の男性で、バス停によくある透明な風除けの内側に入っていた。
俯瞰的には、待ち行列の先頭からその男性までが風除けの中。A君、私とその後ろの列は吹き晒しという構図だ。
夜になっても止まない強い北風は、真冬の身支度でも辛い。
(風邪ひいたらかわいそうだな……)
束の間逡巡したのち一歩前に出て、眉間に皺でスマホを凝視する黒コート氏に声を掛ける。
ちなみに、私よりずいぶん体格がいい。
「あのすみません、この子を中に入れてもらえませんか」
先ほどから黒コート氏と風よけの間の中途半端なスペースが気になって、それらしい視線を送ったりしていたのだ。
それを知ってか知らずか、彼は風除けの外で震えるA君をまったく無視又は気付かないふりをしていた。
少なくとも私にはそう映った
赤の他人の一言をどう受け取ったかは分からないが、こちらを一瞥したのちA君を見るでもなくひたすら仏頂面で半歩前に進む黒コート氏。
「あぁ、ありがとうございます」と頭を下げる。礼儀は礼儀だ。
小学生一人分に拡がったスペースにスッと入るA君。
震えもジャンプも止む。
3.夜の闇を進むバス
数分後、始発の空バスが到着し、待ち行列はぞろぞろと吸い込まれて行く。
順に席が埋まり私も座る。始発はありがたい。
定刻に発車するバス。暗い仲町通りをいつもどおり粛々と進む。
黒コートは斜め後ろの席にいた。
(先に降りてくれないかな……)
約15分後、自宅最寄りのバス停に止まる。
席を立つ。ぞろぞろと列をなしてバスを降りる。
意識は、後ろに集中したままだ。
降車ドアが閉まる。
チラとバス車内を見上げる。
黒コートが、いた。
視線がこちらを向いている…………ような気がした。
(最近は、些細なことで逆恨みされたりするからな……)
意識的に顔を下げ、自宅とは反対方向に歩みを進める。
バスが遠ざかり見えなくなる。
あとに残るのは冷たい北風だけ。
ホッとため息をついて踵を返し自宅へと急いだ。
4.そして何を思ったか
家でワインを飲みながら帰路を振り返った。
- 人の振り見て我が振り直せ
- 情けは人のためならず
- 子供は風の子、とはいえ冬の夜は暖かい服装が吉だと思います
そんなところ。
5.まとめ
2月も後半。
居座り続けている大陸出自の寒気団は、数日後には生まれ故郷に帰る模様です。
梅は今が盛りで、道端には水仙も咲いています。
1か月後は暖かい風が吹き、桜の開花でそわそわしていると思います。
バス待ちも楽になり、薄着の小学生が震えることもなくなるでしょう。
もうしばらくの辛抱。
春を楽しみに待つことにします。
おしまい