最近読んだ本_2021/07

Tokyo2020の開幕を待っていたかのように夏本番がやって来ました。

地元民ですらこの時期の暑さは辛いのに、屋外競技の選手、高緯度の国から来た選手はさぞ大変でしょう。

photo / Unsplash

 

だから、報道された「こんなに蒸し暑いと思わなかった」「話が違う」という愚痴はすごくよく分かります。

分かるのだけど、ここ一番の勝負にプロモーターの甘言を鵜呑みにして来ちゃダメでしょ、とか、悪いねジモティだって暑いのだ、などと突っ込みたくもなる。

 

……余計なことを考えながら今月は4冊読みました。

 

 

七河迦南「アルバトロスは羽ばたかない(創元推理文庫)」★★★★★+★

 

先月、著者の処女作にして七海学園シリーズの第一作「七つの海を照らす星」を読んで、いろいろな意味で驚かされた。

続編の本書を、前作を上回ることはないだろうと先入観を持って読み始めたが、そんな素人の浅知恵など木っ端微塵に打ち砕くより大きな驚きが仕掛けられていた。

読了後、慌てて読み返すと全く違う景色が見えた。文字通り世界がひっくり返って呆然とする。

 

あらすじは省略する。前作に続く児童養護施設七海学園の保育士北沢春菜とその友人野中佳音を軸とする連作短編集。もちろん主役は学園を我が家とする子どもたちだ。

読み進むにつれ前述の先入観で余計に退屈に思えてきて、「冬の章Ⅵ」の手前では後悔さえ感じていた。

 

でもどうだ。

今は本作の後日譚が折り込まれているという短編集「空耳の森」を探している。

続きが読みたくて仕方がないのだ。

 

なぜって?

そんな結末はあんまりだから。

……にもかかわらず希望は持っているから(本文中の表現を拝借)。

 

七河迦南は、東京創元社が特異とするいわゆる「覆面作家」らしい。いったいどんな作家さんなのか、そちらの方面にも興味は付きない。

 

 

 

七河迦南「空耳の森(ミステリ・フロンティア)」★★★★★

 

著者の三作目。Kindle版はないので紙の本を図書館で借りた。

9本のミステリーが収められた短編集で、今月前半に読んだ「アルバトロスは羽ばたかない」の後日譚も含まれるということで手にとった。

 

そして目的の1編を探しながら結局3編だけ読んで本を閉じた。

不真面目な読者だ。

 

でも分かっちゃいる。

本作でも8編目までに蒔かれた伏線が最終編で一つに繋がり視界が一気に開ける著者の世界観には揺るぎのないことを。

全編を読み通すには根気が続かなかったが、気になっていたあの人のその後は分かった。正確に言えば、想像できた。

 

そのまた続きを読ませてくれ!と願ったり、やはりこのまま寸止めでいいですと引いたり、不良読者の心理はややこしいのだ。

 

 

 

南杏子「サイレント・ブレス 看取りのカルテ(幻冬舎文庫)」★★★★★

 

大学病院の総合診療科に勤務する医師水戸倫子は、ある日担当教授から看取りを診療の柱とする街の訪問クリニックへの転勤を命ぜられる。

戸惑いを引き摺ったまま赴任する倫子だったが、有能な看護師と事務職に助けられながら綺麗事では済まない看取りの医療現場に次第に慣れ、理解し、医師としてだけでなく人間として死へ向き合い方を深く考えるようになるのだった。

 

第一印象は、失礼ながら「医者になる人は小説も書けちゃうんだねェ」程度だったが、読み進めるにつれ倫子の愚直とも言える取り組みに背筋が伸び、不本意ながら6章すべてで涙活していた。

年齢的、経験的に身につまされる内容だったこともあるが、在宅医療の現場をリアルに書きつつ、専門家にありがちな上から目線ではなくあくまで患者と家族に寄り添う医療者の姿が丁寧に描かれていたからだ。

 

「どうせ死ぬのだから放っといてほしい……」、と捨て鉢になる患者側の心理。

「死を目前にした患者さんに、つまり治療法のない患者さんに、医師は何ができるのでしょう(本書より引用)」という医療者の悩み。

 

両者の狭間で、まさにケースバイケースで揺れ動くのが「看取り」というものだろう。延命治療を希望するしない、胃瘻の装着、在宅での看取り等々、そう遠くない将来に向き合わなければならない場面は参考にもなった。

意識して手にとった本だが、期待以上の満足感があったし読後感も清々しかった。

 

 

 

南杏子「ディア・ペイシェント 絆のカルテ(幻冬舎文庫)

 

民間の総合病院で常勤内科医を務める真野千晶。日々の診療業務は、限度を超えた数の患者と発せられるクレームの数々で過酷を極める。

そんなある日、座間という粘着質の患者が病院に現れ、度を越した苦情を対面ばかりかネット上にも展開し、病院経営に悪影響があるとして千晶は経営陣から糾弾される。

座間の真意は何なのか。頼りにしていた先輩医師の陽子が窮地に陥った理由とは。

本書も初見作家の「2冊目」というバイアスで読み始めた。そして医師という職業の過酷さを前作より強く認識させられた。

医師不足、患者を集めることに必死な経営陣、そして何よりモラルの低い患者たち。そんな背景の中で個々の患者に最適な医療を施そうと奮闘する医師という専門職……。

 

本書のテーマは、医師と患者の信頼関係だ。

文句の多い患者、クレーマー級かそれ以上の患者がこれでもかと登場する。多少の誇張や偏見もあるとは思うが、現役の医師である著者の目に医療現場がそんな荒んだものに映っているとすれば問題は深刻だ。

 

医師と患者とはいえ所詮は一人の人間。

病気を診てやる、お代に見合ったサービスを提供しろ、そんな次元ではなく互いの立場や事情を思いやり、尊重し合うことを出発点にできないものか。

多少の愚痴っぽさを感じたのでマイナス一星としたが、サスペンス仕立ての濃厚な医療ドラマに満足した。

 

 

 

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