現在、梅雨のなっただ中で、今日も朝から結構強い雨が降っています。
今朝、NHKの「さわやか自然百景」で北海道のワッカ原生花園を取り上げていました。
鬱陶しい時期だけに、こんな広々とした自然の中を何も考えず歩きたい、自転車で走りたいと思ったので、時節柄、写真だけ貼り付けておきます(笑)。
さて、6月は読書熱が復活しました。全部で5冊。やはり没入できる本の出会いが肝心ですね。
梶尾 真治「おもいでエマノン (徳間文庫)」★★★☆☆
1971(昭和46)年にプロデビューした著者の比較的初期の作品である。
本書以降、シリーズ化されるほど人気が出たのはひとえに主人公のエマノン、異国風の彫りの深い顔立ち、痩身で髪は長く、クリッとした瞳の奥に謎を湛える美少女の魅力が大きいだろう。
小説のテーマ、ストーリーからは離れるが、本書での彼女は、ことあるごとに両切りのタバコをふかす。昭和ならではの主役の所作が、本書以降2017年まで続く6冊の続編でどのように扱われたか気になる。
生命が誕生してから現代の人類に進化するまでの何億年にも亘る記憶、言わば地球の歴史を内に抱える彼女とその膨大な記憶が、このSF連作小説の軸だ。
率直に言って往年のSF読みとしては、背景にもう少し深みが欲しかった。
なぜ記憶は脈々と引き継がれるのか、誰が何のためにそれを仕掛けたのか等々、ほんの僅かでもヒントやSence of Wonderが感じられれば、奥行きが増して印象は全く違うものになっただろう。
辛い評価になるが、コクの足らない薄味のSFと言わざるを得ない。
飯田浩司「「反権力」は正義ですか―ラジオニュースの現場から―(新潮新書)」★★★★★
ニッポン放送のアナウンサー飯田浩司氏が書いた本書は、タイトルのとおり既成のマスコミの報道姿勢や在り様に一石を投じようとするものだ。
貫こうとしているのは、徹底した現場主義、取材主義、検証主義で、アナウンサー自ら原発事故の帰宅困難地域、沖縄の基地問題地域・・・等々に足を運び、生の姿を見、当事者や地元の人に話を聞いて検証する。それをベースにして、ムード的なものを排した客観情報を考える材料として提供しようとする姿勢には説得力がある。
自らのジャーナリストとしての立ち位置について、同業者から政権寄りと揶揄されることがあるとも書いているが、「是々非々で報道して何が悪い!」との開き直りとも取れる本書での主張は、既存の多くのマスコミが安住している権力批判一辺倒、善悪二元論的な報道姿勢に対する彼なりの柔らかな反旗だ。
自衛隊の不発弾処理隊の項では、聴き取りをした隊員の謙虚ながら前向きに任務に取り組もうとする隊員の前向きなコメントに、計らずも涙が出そうになった。文章も全般に読みやすい。
以前から常々、批判することが目的となり良い点を見ようとしないマスコミに腹が立っていただけに、本書を読んで久々に胸のすく思いがした。今後も彼の冷静な分析と発信力に期待したい。
西加奈子「サラバ! (上)(中)(下) (小学館文庫)」★★★★★+★
西加奈子の著作は、以前から気になっていたが読んだのは本作が初めてだ。
読み終わって書評を書くためにこうしてキーボードを叩いているが、正直言って今、感想を言葉に表す自信はない。この小説を受け止め切れていないし、湧いて来た感情、気持ちをまとめ切れていないのだ。
本作は、著者の文壇デビュー10年目の作品にして直木賞受賞作。300頁超 × 3冊の長編だが、私にしては珍しく1冊3日、(上)(中)(下)を約10日間で読了した。
語り手兼主人公の圷歩(あくつ あゆむ。両親の離婚後は今橋姓)が、父親の赴任先イランで生まれてから37歳までの自伝形式でストーリーは進む。
石油会社に就職後、海外勤務を目指した父、料理上手でいつも若さを失うことをよしとしない母奈緒子、そして超エキセントリックだけど超センシティブな姉貴子。
この圷一家の周りに、奈緒子の姉妹と祖母、帰国時に住んだマンションの管理人のおばちゃんが居て、歩には学生時代の友達や恋人が居て、卒業後ライターとなってからもたくさんの出会いを経験する。
そして父の赴任先エジプトで小説のタイトル「サラバ!」を通して深いつながりを作るヤコブと出会う。きっと37歳以降も、ヤコブとの繋がりは消えることはないだろう。
(ここから先、ネタバレありです)
この小説のテーマは、人間の成長と再生なのだと思う。
歩はある時、長い放浪の上にようやく生来の自分を発見した姉貴子から「あなたには芯がない」と言われる。芯がないからフラフラした人生を送ることになるし、現に送っていると。
言われた歩は猛烈に怒り、そして貴子や自分を取り囲む煩わしいものから逃げ出し、以前に増して自分の殻に閉じ籠ようになる。
しかし、それは前向きに生きるヒントを与えようとする貴子の歩に対する愛情だった。
気付き始めた歩はその後、出家した父を姉に勧められるままに山奥の寺に訪ねる。次いで、会えるかどうか分からないエジプトのヤコブに会いに自分の意思でエジプトまで行き、奇跡の再会を果たし、そこで大きな啓示を受けることになる。
そしてとうとう自分の芯を、生きる糧を見つける。自分の力でそう出来ること、前を向いて生きていけることを発見する。
・・・やはり、まとまりにない書評になった。
いや、それでいいのだ。それだけインパクトのある大変な小説だったし、本書を読んで私と同じような戸惑いと読書の喜びを感じた人は多いのではないかと思う。
切にそうあって欲しいと願う。