12月分の書評が年を越してしまいました。今年もたぶん小説ばかりになると思いますが、月3〜4冊はキープしたいと思っています。「残り時間を大切に」がコンセプトですから頑張りまっす、もとい楽しみま〜す。
- 海棠尊「チーム・バチスタの栄光」★★★★☆
- 言わずと知れたベストセラーは、迷った末に星4つ。下巻から登場した技官白鳥のキャラが鼻に付き過ぎたので1減にしたが、上巻全編と下巻巻末の、主人公田口講師と高階病院長が話を進める部分は洒落ていて抜群に面白い。巧みな人物造形と静かなるユーモアがこの医療小説のセンス・オブ・ワンダーを際立たせている。
田口講師が担当する不定愁訴外来、人呼んで「愚痴外来」は、患者の訴えをひたすら聞くことを唯一の治療法とする。これだけで思い出し笑いが何度も出来るので本当に座布団1枚だ。 - 山本兼一「利休にたずねよ」★★★★☆
- 直木賞受賞作にして520ページの大作は、さすがに読み応えがある。茶聖と称され茶の道におけるひとつの完成形を極めた利休。彼はなぜ自ら死ななければならなかったのか、あらゆるものに美を見出す心の奥底には、何があったのか。
著者は、時間を遡りながら「緑釉の香合」を軸にして異界に通じていたかのような利休の茶を検証して行く。初章で提示される利休の心の闇にどこまで迫るのかと期待しながら読み進めたが、掘り下げがやや浅い終盤に物足りなさを感じた。彼が本当に愛したのは高麗の姫か後添え宋恩のどちらか、本人に尋ねてみたい。 - 乾くるみ「スリープ」★★★☆☆
- 久々に読んだSF小説。ストーリーは冷凍睡眠を要として30年の時を行ったり来たりしながら二股に別れて行く・・・、ように仕組まれている。よくある「読者に委ねられた結末」と思わせておきながら、途中に張られた伏線からもの悲しい終章へと導く、なかなかテクニカルな構成である。
近未来の技術的アイデアや倒錯気味の性的表現がスパイスとなって独特の世界観が出来上がっているが、主人公の天才少女羽鳥亜里沙を最後まで活躍させて欲しかったので星は3つ。