暑かった8月。今夜も湿度は高いけど、気温は昨日までと比べると少し下がってます。窓からは虫の鳴き声。次回の書評を書く9月末には、秋の気配が濃くなっているでしょう。
- 下川裕治「タイ語の本音」★★★★☆
- タイ王国を心から愛する著者のタイ語入門講座、・・・と思ったら大間違い。「マイペンライ」、「サヌック」、「サバーイ」などタイ語独特の慣用句を通してタイ人の本質に迫る渾身の一冊である。
「金目鯛(キンメダァイ)は食べられない」には思わず膝を打ち、そして笑った。ミャンマーとバングラデシュの間に東西文化の境界線があるという主張もアジアをホームグランドとする旅行作家だけに説得力がある。 - 垣根涼介「真夏の島に咲く花は」★★☆☆☆
- 南太平洋の楽園フィジー諸島。常夏のジャングルには果物、根菜など天然の食料があふれ、土着の人々は昔から凍えること、飢えることを知らなかった。一方、植民地時代に労働力としてイギリス人に連れてこられ今や人口の半数を占めるに至ったインド人は、ゆったりとしたフィジー社会に大きな変化をもたらす。
思考、文化、行動様式の違いから来る摩擦は、小さな島に暮らす現代の若者達の日常にも大きな影を落としていた。心優しき巨漢チョネとアキの恋は成就するのか。
現実に起こったクーデターを軸に展開するストーリーなるも、いかんせん分厚い。半分にまとまる内容ではないか。それとも南海の楽園にゆったりと流れる時間を話の長さに表したか。期待の著者だけに辛めの星二つ。 - 福井晴敏「小説・震災後」★★★★☆
- 震災後、自分自身と日本人が進むべき道について父親に教えを請う普通のサラリーマン野田。かつて防衛省の要職にいた父親のもとには地震の直後から電話が頻繁にかかってきていた。闇に落ち込んでいく息子の心を野田は引き戻すことが出来るのか。
タイトルの通りこれはあくまで「小説」である。がしかし、震災発生後からの時系列をなぞって描かれたドキュメンタリーのような側面もあり、当時のことを思い出しながら読んで3.11を既に過去のものにしつつある自分に後ろめたさを感じた。
相変わらずの福井節は読み応えがある。日本は現場力の国。震災後の世の中に向けた著者のメッセージは明る過ぎるほどに明るい。