最近,ネット上の動画から音データだけをICレコーダーに落とし込んで通勤電車などで楽しんでいます。好きな音楽をいつでもどこでも楽しめる良い時代になりました。
本日は唐突ですが,そんな中でつらつらと考えたジャズの帝王、マイルス・デイヴィスについてのひとこと。
幅広いマイルスの音楽のうち、1960年代のいわゆる「黄金クインテット」前後から1970年代前半のロックがかった「電化サウンド」あたりまでが私の好み,守備範囲になっていましてね。勢いダウンロードはそのあたりの楽曲が多くなります。
アルバムでいうと Four & More 前後から Nefertiti,Miles In The Sky,In A Silent Way,Water Babies,ご存知 Bitches Brew,そして Jack Johnson あたりまで。ファンク色が濃くなったと言われる On The Corner 以降の路線は,聴いて心地よい感じがしなくて,未だにどうも馴染めないのでほとんど聴くことはありません。
ストライクゾーン、すごく狭いです。
さて,一般的な評価をなぞることになりますが,当時のマイルスは従来の旧態依然としたジャズを作り替えて新しい音楽を創り出そうとする先駆者でした。
数々の新しい試みに対して一般大衆からは賞賛の声が多かったものの,一方で古くからのジャズファンや評論家など玄人筋の一部からは痛烈な批判をたくさん浴びました。8ビートやロックのリズムを取り入れたことに関して,やれ4ビートにあらずばジャズにあらず,やれ歌を忘れておる,やれロックなどという下世話なものにうつつを抜かしおってなどなど。どんな場面でも無愛想なマイルスの行状も含めて激しい論争が巻き起こりました。
いつの世でも先駆者は,辛い目に遭うものです。
でも、学生だった私にとってこの時期のマイルスの音楽はまさに「待ってました!」と言うべきものでした。なぜなら、ブラスとリズムセクションとの組み合わせが当時好きだったシカゴ,BS&Tなどのブラスロックの進化形に感じられたことと,それまで理解したくても出来なかったジャズという音楽にようやくアプローチ出来るという気にさせてくれた、言い換えれば新しい世界の扉を開けてくれた音楽だったからです。
当時よく通ったオーディオ
機器の老舗ONKYOのショールームで,初めて試聴させてもらった2枚組みLPレコード(!)Bitches Brewの冒頭を飾る「Pharao’s
Dance」の印象は鮮烈でした。約25分間の演奏を聴き終わったとき,驚きと興奮の余韻で椅子から立ち上がれなかったことを今でも覚えています。
それはさておき,独自のジャズ評論で知られる寺島靖国さんは、自著「辛口ジャズノート」の中でこの時期のマイルスを評してこんな意味のことを書いています。
- ファンや評論家に甘やかされてマイルスは増長した。
- ラッパを吹かずに大ぼらを吹いて引っ込みがつかなくなった。
- 大胆過ぎる変革に「それは違う!」と忠告できる人が周囲にいなかった。
寺島さんは「先駆者は独りよがりに陥りやすい」,そんなことを仰りたかったのじゃないのかな。そういうことってどこの世界にもあるよな~と思う一方,どうだっていいじゃん,結果として多くの人に受け入れられているのだから,などとひとこと言いたくなったりします。
長くなりました。
独りよがりながらもクリエイティブな仕事をし続け,結果として「帝王」と呼ばれた男,マイルス・デイヴィス。私にとっては Favorite ではなく、いつまでも Interesting なミュージシャンなのです。
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