なんとか3冊/月、いきました。
- 北村薫「ひとがた流し」★★★★☆
- 著者初めての新聞連載小説。
幼なじみの3人の働く女性を通して、深遠で艱難辛苦だらけの人生を作者らしいさりげなさで語る。その一方、新聞連載とは平坦な話がだらだら続くものという先入観は見事に裏切られ、娘達の心の機微も織り交ぜながら後半はジェットコースター的展開で一気に読めた。
北村さんにしては珍しくエロチックなシーンもあり、妙にどきどきする。 - 垣根涼介「借金取りの王子」★★★★★
- 企業リストラ代行会社の面接官村上。年上の恋人陽子からは「ろくでなし」と蔑まれるが、辞職勧告の面接では、デパガ、サラ金店長、生保営業所長などの心に鋭く踏み込んで行く。
村上に退職を進められた相手はいったん立ち止まって己が人生を振り返ることになるが、やがては仕事やノルマだけが人生ではないことに気づいて肩の荷を下ろす。ただし、会社を辞めることになるのか、今までどおり頑張るのかは人それぞれ。
この作家の小説で拳銃や乱闘シーンが出てこないのはこのシリーズだけだが、各エピソードの読後感はひたすら爽やかで優しい気持ちになれる。特に表題作は泣けた。
続編が待ち遠しい。 - 下川裕治「新・バンコク探検」★★★★☆
- 南アジアの大都会バンコクとそこに暮らすタイ人を道路、交通、都市計画、料理ほかを通して深く考察、分析するガイド本、というより立派な論文になっている。この本が書かれた時期が、私が滞在していた時期と重なるので(そうそう!)とか、(そうだったのか・・・)などと思いながら完璧に没入してしまった。
ソイ(路地)はなぜことごとく行き止まりなのか、タイ人はネコのような民族である、金持ちは車に乗り貧乏人はバス停でミニバスを待つ、タイ人の舌は繊細でナイーブなどなど・・・、バンコクとタイ人を心底愛する著者の鋭い洞察を通して当時を思い起こせば、訳の分からなかった南国の風景がスーッと胸に入ってくる。
もう一度チャオプラヤー河を眺めながらビアシンでガイヤーンを食べたくなった。