経済危機が叫ばれる昨今。大手ゼネコンが大幅赤字に転落!などというニュースが聞こえてきたりしますが,土建国家日本の屋台骨を支えるのは,やはり土木,建設工事でしょう。
ダンプやユンボが走り回り,ヘルメットに作業服のおじさんたちが出入りする工事現場は,騒音,ホコリなどから近所迷惑ではあるものの,街に活気をもたらしてくれるものでもあります。
強引な導入部で,2年強の空白を誤魔化しつつ,工事現場に付き物の,”あの”看板にスポットを当てる「お願い看板コンテスト」。満を持して第3回の始まり始まり。
(1) 一見,オーソドックスではある。ではあるが何かが引っかかる。
このヘルメットおじさん,ちょっと怪しくないですか。頭はフラフラ,両手はぶらぶら,目がアッチ行っちゃってる。まるでゾンビですね。近隣からのきつい苦情を何発打ち込まれても再び起き上がってズリズリ…。
ははぁ~,新手のお願い戦略「気持ち悪さでヒトを寄せ付けないぞ作戦」ですな。まぁ,工事中はそれで何とかかわせるでしょうが,新築なった物件にゾンビ伝説が染み付いても知りませんぞ。
(2) 「このぉ~木,何の木,気になる木ぃ♪~」をバックに,可愛いい坊やと子猫がモジモジと協力を訴えるメルヘン調の作品。
「子供と動物には勝てない」という,映画やCMにおける黄金則で近隣の苦情をかわそうとする,作者のしたたかな意図が読み取れますね~。
しか~し,建設工事現場は,エンタテイメントやアドバタイズメントとは,ひと味もふた味も違うタフな世界。低姿勢と強面,時には実弾を使い分ける覚悟が必要であろうと,忠告しておきましょう。(それはそ~と,実弾て何やねん?)
(3) 何となく大陸的な匂いを漂わす現場主任が,謝罪と言い訳と協力依頼を,句読点無しで一気にまくし立てています。
殺伐としたブロック壁に樹脂テープで無造作に貼り付けるという掲示方法にも,大陸的大雑把さが感じられ,現場主任の笑顔とは裏腹に,そこはかとない寂寥感を感じるのは私だけではないでしょう。
さて,工事現場で荒み切った胸の奥底は,湯気の立つ麺と点心で暖めるとしますか。温かい烏龍茶も付けて…。
(4) 某大手住宅メーカーのこの作品に足らないもの。それはただひとつ「泥臭さ」でしょう。
エンドレスハートを冠したヘルメットのおじさんが訴えていることは,極めて真っ当だし,お願い看板としての機能は充分に満たしている。
それでも「劇団ひとり」,もとい,「審判団ひとり」としては,重機や工具の騒音,建材や溶剤の刺激臭,仕上げ前のホコリっぽさ,その他いろいろなものがゴチャ混ぜになった工事現場の雰囲気,とりわけ汗の臭いをお願い看板には感じたいのです。シミひとつない事務服にヘルメットは,付け焼刃がバレバレ。近隣の目は,それほど甘くありません。
(5) 敷地内と看板周りに生い茂る雑草が,塩漬け物件のうら寂しい雰囲気を盛り上げています。
俯いて首を横に振るおじさんが表現するのは「諦め」でしょうか。資金繰りの悪化によって着工の目処が立たず,工事管理の手腕を発揮したくても出来ないもどかしさをも内に秘めているような表情。
工事の出資者が,今,どのような境遇にあるのか。現場の裏事情に野次馬的な思いを馳せるのも,お願い看板鑑賞の醍醐味でしょう。
何という分かりやすさと潔さ。ユーザビリティが考慮された配色にも好感が持てます。
「愛想が無い」とか「下手に出んかい!」などといった辛口の批評をサラリとかわしながら,お願い看板の本質を真っ向から表現する,恐れ入りましたの一品。
(7) 工事現場で視力検査,という意外性で勝負する異色作品。
小さく「6m離れてお計りください。」の注意書きはあるものの,人を寄せ付けたくない工事現場に,却って衆人が寄ってきてしまう,危うい側面を持っています。
片目を押さえて看板を凝視していたら,上からスパナが!な~んてことは無いと思いますが,逆に,工事現場周辺には常に人がいるということを作業員に意識させるべく,あえてこの作品を選んでいるとしたら,この現場の元請けは,なかなかの策士ですな。
この看板を見て,現場主任の所属するゼネコンの現場では,朝礼で「安全,信頼,協力」の社訓を唱和しているものと,私は確信しました。
現場5点セット(ヘルメット,作業服,軍手,安全帯,安全靴)で固めた彼には一分の隙も無く,キリリと結ばれた口元は「絶対に迷惑は,かけませム!」と誓い終えたところか。楕円形のバックも,通りに面する工事現場周辺の雰囲気を和らげることでしょう。文句なしの一等賞。
※カテゴリ「お願い看板」へ