今回は、戒名について。
改めて考えてみると、「そもそもそれって何なの?」「何で必要なの?」「生きているうちにもらえないの?」などなど突っ込みどころには事欠かない戒名ですが、難しい話は抜きにして筆者を含む普通人が知りたい情報だけをとりあえず集めてみました(費用の面は除く)。
そして最後に、筆者自身の生前戒名を考えます(汗)。
1.そもそも戒名とは
- 仏弟子となることを表す名前、釈迦の教えを守ることを約束した証として付けられる名前
- 本来は、出家して仏門に入った人に付けられるものだった
- 大乗仏教から「死後は全ての人が仏弟子となる」との教えが広まり、死後に付けるのが一般的となる
- 俗名ではなく戒名で葬儀を行うと極楽浄土に行けるとの考え方もある
- 宗派によっては、「法号」「法名」と称することがある
- 生前に戒名を持つことは可能だが、いくつか注意点がある
大雑把にはそんなところです。
要するに現代の戒名は、大乗仏教の影響を強く受けて葬儀と寺がセットのようになっていて、「亡くなった人には必要だから」くらいのノリ、又はほとんど条件反射的にお坊様にバタバタと授与を依頼する……、そんなケースが多いのではないかと思います。
まあ、普段からお寺や仏教に縁が薄ければ、それも致し方ないのかもしれません。
2.戒名の構成
さて、戒名には一定の様式があります。
- 基本形は、「院号」+「道号」+「戒名」+「位号」
- 院号:皇族や貴族、社会的貢献度が高い人などに与えられる位
- 道号:悟りを開いた人に与えられる称号
- 戒名:仏の世界における呼び名
- 位号:戒名の最後に付く尊称(男性:居士、信士 女性:大姉、信女が多い)
カジュアルではなくフォーマルが求められるのはある意味当然ながら、生前の功績や社会的地位が死後もついて回ることを是とする発想には疑問を感じないではありません。
宗教を通り越して人間の欲や業そのものになっている気さえしますが、今の世の中の大勢はそんなもののようです。
なんだか引っ掛かりますがね……
さらに興味深いのは、戒名に使われる文字には以下のような決めごとがあることです。
3.三撰三除の法則
【三撰】
- 意味のある熟語やよい語源をもつ字を使う
- 音感にも注意し、響きの良いものになるように組み合わせる
- 年齢にふさわしい語句・字を使う
【三除】
- むやみに難しい字は使わない
- 意味がわからない字は使わない
- 悪い意味を持つ字は避ける
具体的には……
4.ふさわしくない文字(三除の法)
- 奇怪な難字
- 無詮の空字(漢字に意味がないもの):乃、也、於、但など
- 不穏の異字(発音が好ましくないもの):争、恥、敵、悩、死、狂、病、損、害、腐、負、失、醜など
5.避けたほうがいい文字(二箇の大事)
- 歴代天皇の尊号と年号、各宗派の祖師(開祖)、高徳者、歴代本山の戒名とかぶるような文字
- 動物の名前:牛、馬、猿、蛇、蛙、犬、猫など(麟・龍・駿・鹿・亀・鳳・鶴などは可とされる)
6.その他避けられる文字
- 典拠のない熟語
- 他宗派を象徴する漢字(誉・釈・日)
- 同じ音が続く漢字(例:新信)
どれも(なるほど~)、(そういうもんだろうな~)とある程度納得できるものの、それらがお釈迦様直々の教えなのか、それとも人間側の忖度なのかはイマイチよく分かりません。
いずれにしても大乗仏教の考え方が時間、時代とともに世俗的な慣わしに変化し、いつの間にか定着したように感じますがどうでしょうか。
続いて戒名の実例を集めてみました。
7.各界著名人の戒名
さすが実績や功績から名前を残された方々は、各々に相応しい立派な戒名をお持ちです(西暦は没年)。
- 惣見院殿贈大相国一品泰巖尊儀(織田信長/1582)
- 国泰裕松院殿霊山俊龍大居士(豊臣秀吉/1598)
- 安国院殿徳蓮社崇誉道和大居士(徳川家康/1616)
- 貫天院殿純義誠忠大居士(近藤勇/1868)
- 南州寺殿威徳隆盛大居士(西郷隆盛/1877)
- 大観院独立自尊居士(福沢諭吉/1901)
- 露伴(幸田露伴/1947)
- 周山院殿作徳繁栄大居士(佐藤栄作/1975)
- 芳蓮院妙優日雅大姉(夏目雅子/1985)/li>
- 伯藝院殿覚圓蟲聖大居士(手塚治虫/1989)
- 茲唱院美空日和清大姉(美空ひばり/1989)
- 政覚院殿越山徳栄大居士(田中角栄/1993)
- 顕峰院法正日剛大居士(ジャイアント馬場/1999)
- 瑞雲院法道日長居士(いかりや長介/2004)
- 廉正院端風聚幸大居士(青島幸男/2006)
- 立川雲黒斎家元勝手居士(立川談志/2011)
- 希鏡啓心大姉(樹木希林/2018)
- 女好院太摩羅珍宝大居士(北野武)
一番最後の方は現時点でご存命ですが、照れを虚勢で包んだ命名にはいかにもあの方らしさが滲み出ていて、思わずニヤニヤしちゃいました。
つまるところ戒名とは、ご当人の人となりや思想、嗜好、生き方など人間像全体が色濃く表れるもの、また表すべきもの……、そんな気がしてきます。
さて、ここからは生前戒名の実際です。
8.生前戒名の注意点
- 戒名作成と授与の公的資格は存在しないので、自分自身で戒名を作っても法律上は何ら問題ない
- 生前戒名の授与を生業とする企業はあるし、戒名の持ち込みOKの寺もある。
- とはいえ檀家となって菩提寺がある場合、事前に住職様に相談しないとトラブルになる場合がある(逆に相談すること自体が仇になることもあり得るので注意)
- 生前に取得した(作った)戒名は必ず親族に伝えておかないと、葬儀の時点になって無駄な出費を招きかねない
9.生前戒名の作り方
※以下、「コトサラ / 色んなコト、サラにもっと。」から引用させていただきました。
①戒名
「名前の一文字」+「清字(仏教の理念や信仰を表す文字)」で考えます。順序は逆でも可。
【清字(例)】
安、英、恵、温、賢、義、志、秀、純、俊、真、清、信、浄、仁、静、誠、聖、善、泰、達、智、忠、徹、哲、満、勇、陽、和、才、弘、願、愛、威、休、久、因、維、皆、栄、楽、堪、寛、歓、勝、承、全、禅、想、晴、操、性、証、貞、広、堅、敬、環、縁、応、恩、仏、淵、美、超、不、幽、累、倫、力、和、廉、雄、資、昭、功、固、在、尽、充、柔、親、説、探、常、生、寧…
②道号
「年齢・性別に応じた一文字」+「実字(自然物等に関わる一文字)」 で考えます。
【年齢・性別に応じた一文字(例)】
壮年の男性:威、覚、鑑、義、賢、憲、玄、厳、豪、隆……ほか
壮年の女性:香、好、孝、彩、室、貞、妙、美、豊、麗……ほか
【実字(例)】
天、空、日、月、雲、光、風、燈、春、夏、秋、冬、水、川、雪、虹、嶺、峰、淵、岳、岩、泉、丘、松、竹、梅、蓮、菊、桂、庭、華、香、珠、玉、龍、鶴、亀、鷹、仙、翁、宝、道、鑑、帆、舟、窓、陰、陽、海、林、関、国、伯、文、星、田、池、頂…
③位号
男性であれば、「居士・信士」、女性であれば「大姉・信女」のうちどちらかを選択すれば良いでしょう。
……引用ここまで。
ちなみに最近は、戒名自動生成アプリやお坊さん専用向けのソフトも登場しているそうです。
誰がどう使うのか詮索はしませんが、(戒名までスマホかよっ!)と突っ込みながら、しみじみ時代を感じた次第ですww
10.まとめ
今回感じたこと2点と結論です。
本稿、お金の話は抜きにして書きましたが、何故か片手落ちのような気がしてなりませんでした。
やはり今の世の中で戒名を語るとき、「寺、坊様との関係及び費用」は、避けて通れないのかもしれません。
ぶっちゃけて言ってしまうと、そのあたりが日本の大乗仏教が内包する面倒くささ、胡散臭さの一面のような気がします。
もう一つは、「漢字文化の奥行きの深さ」です。
一個人の人となりやその背景から果ては人生までを、いくつかの漢字の連なりで言い切る戒名。
大袈裟に言えば漢字文化の一つの極み、日本人としてはそう胸を張ってよいものだと思いました。
……ということで今回の結論です。
「戒名」と聞くと、その字面や言葉の響き、葬儀との結びつきからどうしても暗く重たいイメージを抱きがちだが、改めて戒名とは、生まれたときに付けられた名前と対になって一個人の全体像を表すものと前向きに捉えることが出来る、と思う。
そして戒名を、彼岸でのお釈迦様へのお近づきの徴し、弟子入りの挨拶に差し出す名刺のようなものと考えれば、どのような漢字を連ねるのかは人任せにせず、自分自身で決める、あるいは自分のことをよく知っている人と相談して決める、それくらい思いを込める価値があるもの、だ。
つまり本稿タイトルの疑問への答え、個人的結論は「是」です。
あとはハードルを如何にして乗り越えるかだけ。
それとなく意識している終活の中で、もとい、最優先で考えるとしますか……
ということで最後に……
11.筆者の生前戒名
とりあえず現時点のものということで。
- 流転院弦冬秀善居士
又は自由律でシンプルに……
- 節分居士
そんなところです。
12.参考にしたサイト
◆ コトサラ / 色んなコト、サラにもっと。(一部の記載を引用させていただきました)
http://cotosara.com/kaimyo_jisaku/
◆ NEWSポストセブン(週刊ポスト2011年10月21日号)
https://www.news-postseven.com/archives/20111015_60218.html?DETAIL
◆ 葬儀屋さん
https://sougiyasan.jp/faq/shukatsu/1798#headline_78163
◆ いい葬儀
https://www.e-sogi.com/guide/15486/
◆ おぼうさんどっとこむ
https://obohsan.com/kaimyo/
ありがとうございました(._.)。