この8月、職場の夏休みを利用して5回目の四国巡礼に行ってきましたので、その所感をまとめておきます。 コースと周った寺、歩いた距離などの詳細データは、(データ編)に整理しましたので、そちらも併せてご覧ください。
- 1_旅行日程
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- 1日目:8月15日(火)東京駅から夜行バスで出発
- 実質的な巡礼は、8月16日(水)~19日(土)の4日間で三十六番から四十四番までの9ヶ寺を周った。
- 5日目:8月20日(日)松山駅を夜行バスで出て6日目の朝に新宿バスタ帰着。
- 2_行程中の天候など
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- この夏は、東京での連続降雨記録が話題になるほど、関東と東北はどんよりして薄ら寒いような天気とゲリラ豪雨が続いていた。
- そんな中で出かけた四国は、一度だけ夕立に出会ったものの4日間とも好天に恵まれ、真夏の日差しと抜けるような青空を満喫することができた。
- 暑さは関東のそれと同じように厳しく汗はたくさんかいたが、べたつく感じは東京ほどではない。服装がラフなこともあってむしろ爽快で歩いていて気持ちが良かった。
- 3_宿泊について
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- 宿坊(8/15):39番岩本寺★★★★★
- ビジネスホテル(8/16):ホテルアバン宿毛★★★★★
- 民宿(8/17):民宿みま★☆☆☆☆
- 宿坊に泊めていただくのは2度目で慣れたせいか、前回のように夜中に何度も目が覚めるようなことはなかった。食事は質、量ともに花丸。もちろんビールも頼めるし同宿者との交流がまた楽しい。天井画が素敵な本堂での朝のお勤めも清々しくて気持ちが良かった。
- Hアバン宿毛は、宿泊者目線での細かい配慮が行き届いた巡礼者にも優しい宿だった。ローカルで誠心誠意頑張っているビジネスホテルである。また、巡礼といえども完全個室の宿で心身ともにリフレッシュするのは正解だと思った。
- 民宿については、今回少々考えてしまった。同じ程度の価格で泊まれる宿(今回の場合は宿坊とビジネスホテル)と比べれば設備や接遇サービスは期待出来ないし、食事は立地や調理人のスキルに依存するのでかなりバラツキがある。
そうなると他に選択肢がない場合の避難先としての価値だけだとすれば、今後は「民泊」に押されて相当数が淘汰されるか、又は対抗策として宿泊費を下げる必要に迫られるのではないか。個人経営と施設の維持運営にはご苦労が多いと思うが、私的にはハズレの民宿が減ることを期待したい。
- 4_他人様との交流及び人物観察
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- JR伊野駅発ドラゴンバスの運転手さん
- 乗車の際に、筆者の目的地である竜バス停に行く便か尋ねると、「途中で交代するき、よー分らん」と笑顔で返される。
- 発車後、降車ボタンが押されたバス停での停車を忘れ、ボタンを押した母娘の「降りまーす!」の声で慌ててブレーキを踏む。
- バス停を大きく過ぎたところで停車し降車ドアを開ける。母娘がなぜか「すみませ~ん」と降りてゆくのをやはり笑顔で見送る。
- どうやら料金表示器もセットし忘れていたようで、運転再開後にヒヤヒヤする乗客を他所に空いた方の手で必死にセットを試みる。
- やがて交代場所に着き、運転台を降りて降車する際、筆者に向かって「竜にはいくき!」と再び笑顔で言い残し去って行く。
- それら一連の場面を、筆者は南国土佐のおおらかさと前向きに理解した。そして結果的に筆者も笑顔になっていた。
- 宿坊で同宿した皆さん
- 完全歩き遍路2回目の真っ黒に日焼けした中年男性。健康そのもので充実したご様子が眩しかった。
- 兵庫県から来られたアラサーとお見受けする女性。家族と自分のために掛け軸納経で満願を目指されていた。
- 車で周られている入間市の若い男性。巡礼できること自体に感謝の気持ちでいっぱい、と笑顔で語っていた。
- 動機、目的、手法のそれぞれ違うお遍路だが、お三方とも真摯に四国路と向き合っていることが感じられた。また奇しくも「健康」、「家族」、「感謝」というキーワードが筆者の胸の内とも重なり、短い時間だったがお会いできて好かった。
- JR土讃線ワンマン普通車の若い運転手さん
- 運転と車掌業務は言わずもがなだが、運転中に「よし!」の発声で行われる折々の指差し確認が、確実を通り越して見惚れてしまう鮮やかさである。
- しかも、電車の揺れでどこかに肩をぶつけた小学生が目に入れば「大丈夫ですか?」、駅で降りてゆく乗客には爽やかな笑顔で「お気をつけて!」と声をかける。
- 「前向き」とか「ひたむき」とか「一途」などの言葉が縁遠くなったオジさんとしては、完全にヤラれてしまった。サインをもらっておけばよかったな。
- 37番岩本寺ご朱印所の尼さん
- 取っ付きは言葉少なで怖かったが、締切りの夕方5時を過ぎても快くご朱印を書いてくださり、「暑いけど大丈夫?よう頑張った」と労ってくださった。
- こういう出会いも、巡礼の楽しみ、醍醐味の大きな要素である。
- 39番参拝の帰路、車に乗せてくださった女性
- 傾き始めた陽射しを背に駅に向かって歩いていると、後ろからゆっくり車が近づいてきて、「よろしかったら乗られませんか?」と声を掛けてくださった。
- 開いた窓を覗くと、つい先ほど寺でご朱印を書いてくださった女性がハンドルを握っておられた。駅までの約3kmは歩くつもりだったので内心忸怩たるものはあったが、そろそろビールが頭にちらつき始めていたのでお言葉に甘えることにした。
- 道々聞くと、その日の宿がある宿毛から通っておられるとのことで、寒い時期の「だるま夕日」が有名なことなどを熱心に語ってくださった。聡明そうなお話しぶりと、お若いころは更に美形だったであろう横顔が印象的だった。
- 稲刈り作業中のご夫婦
- 41番に向かう国道沿いの田圃では、稲刈りが盛んに行われていた。
- その脇を延々歩いていると刈り取った稲を束ねているご夫婦と目が会い、「早い稲刈りですね」と声をかけるとわざわざ手を止めて話をしてくださった。
- 「昨今は秋口の台風が多いので、実りの早いコシヒカリに切り換えた、今年は天候にめぐまれているので作柄は良い」と東北の人達が聞いたら羨むようなことを日焼けしたお顔で仰っていた。
- JR伊野駅発ドラゴンバスの運転手さん
- 5_コアな感想とエピソード
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- 【最長のコース】
今回最大の特徴は、起点から終点までの移動距離がとても長いこと。
高知市から入り、四国の西側を足摺岬を含めて大きく周り松山市に抜ける約500kmのルートは、今までの最長記録でした。勢い鉄道とバスに長時間乗らざるを得ずしまいには尻が痛くなるほどでしたが、長い乗車時間、乗り換えの待ち時間を読書に充てられる利点もあり、ちょうど般若心経の解説本を持って行ったので、いやがうえにも巡礼気分は盛り上がるし、まだまだ足らない仏教関係の知識吸収にも役立ちました。また、費用面で電車・バス共通の周遊きっぷが使えたのもラッキーでした(移動費用が約半額になった)。 - 【夜行バスの悪夢】
次いで夜行バスの話。夜間走行とはいえ途中のSAで何回か休憩が入ります。初日、東京駅を20:30に出発したバスは、約2時間で東名海老名SAに入り、ちょうどウトウトしかけたところで一回目の休憩タイムとなりました。
停車時間は10分間。筆者もこれからの熟睡に備えてトイレに向かうべくバスを降りると、広い駐車場にはそこそこ車が停まり、小雨がシトシトと降っていました。ササッと用を済ませたあと、さすが利用者数日本一を誇るSAはトイレもきれいだな~、などとのんびり手を拭きながらバスに戻ろうとすると、駐車場にはいつの間にか似たよ~な数多くの夜行バスがアイドリング状態でズラズラっと停まっているではありませんか。
(しまった、自分のバスはどれだっけ)、はっきり言って焦りました。筆者が乗ってきたのは「KOTOBUS」ですが、夜間でもあり車体の色やロゴだけでは判別がつきません。寝起きのボーっとした頭で夜の小糠雨に濡れながら走り回り、行き先表示などを頼りにこれと思ったバスに乗り込み自席の位置まで行ってみると、そこには見知らぬ荷物が置いてあります。(ウワッ、このバス違う!)、慌てて降りる、再び雨の中を走る・・・、これを繰り返すこと3回。
4回目でようやく自分のバスを探し当てることができ、自分の席に収まれたときの安堵感たるや・・・、フ〜、多くは語りますまい。
まるで悪い夢でも見ているようでした。バス会社には、アナウンスなり何らかの表示なり寝ぼけた乗客への配慮を心から望みます。それ以上に、次回の夜間降車時には、ナンバープレートの数字、車体の特徴、駐車位置等々、何でもいいから自分の目で見てしっかり頭に叩き込んでからトイレに向かう、そう固く誓ったのでした。こんな悪夢のような、トラウマになるような目に会うのはごめんです。 - 【歩ける喜び】
歩いた距離は4日間で約40km。一日平均10kmとはお恥ずかしいような距離ですが、毎度書いているように自分の足で歩き、目的地に向かって前に進むのがとにかく楽しくて楽しくて。周りを見渡せば、澄み渡った空の下には四万十川やのどかな山々、実りの時期を迎え頭を垂れた稲穂が広がる田圃等々、一方ではきれいに整備され手入の行き届いた国道や高速道路の高架等々、そんないかにも日本の国らしい風景を眺めながら歩けることに心から幸せを感じました。車で周っている方には申し訳なく、また完全歩き遍路の方にはおこがましいが、これぞ巡礼ならではの喜びと醍醐味と言えるでしょう。 - 【四万十川は清流か】
今回楽しみにしていたことのひとつが、”最後の清流”と呼ばれる一級河川四万十川を渡ることで、可能なら澄んだ水に手を浸してみたい、そう思っていました。チャンスは39番岩本寺のある窪川駅での汽車待ちの1時間ほど。折よく河原に降りられる場所があり水面に近づくことが出来ました。そして感想は、正直なところ「ガックリ」でした。
その付近はかなり上流側のはずですが、水底の玉石には薄っすら藻が付き河原は何となく臭います。たまたま場所が悪かったのか、それともイメージ先行なのか、単純に判断するのはやめておきましょう。有名な「沈下橋」を観たり、川の幸を食べににまた来よう、そう思うことにしました。 - 【温泉はお預け】
旅行と同じく、計画を立てるときから既に巡礼は始まっています。今回は、最終日に松山駅で夜行バスに乗る前に、一足伸ばして道後温泉に寄る予定を入れていました。旅の疲れを由緒ある温泉で落として帰る夢のような計画。
ところが、いざ現地でお遍路を始めると時間の許す限り一つでも先の寺に進みたい、そういう考えが頭をもたげましてね。今回の終点である43番の寺から松山駅に出る列車の中で逡巡に逡巡を重ねた結果、ここまで飴にしてきた温泉は諦めて、ストイックに次の44番を参拝に行くよう予定を変更しました。
単なる旅行に来てるわけじゃない、これは巡礼なんだと自分によく言い聞かせて・・・。機会はまだまだあります。温泉の楽しみは先送りということで。
- 【最長のコース】
- 6_まとめ及び今後の予定など
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- 今回は、各寺での参拝はいつも通りなるも、鉄道、バスの乗車時間が極端に長かったので「歩く」という面での充実度、満足感は今一つでした。
- ただし、天候には充分すぎるほど恵まれ、身体の疲れもさほどではなかったせいか、実際に歩いている最中は本当に気持ちが良くて幸せを感じました。
- 巡礼の進捗には、以前お世話になった秩父慈眼寺の和尚様が「番号を付すことで全部周る気にさせる上手なシステム設計がなされている(意訳)」と仰っていたとおり、八十八ヶ所のちょうど半分まで来ていよいよ折り返しという軽い安堵感を感じています。
- 次回第6回は、愛媛県久万高原山中の45番岩屋寺がスタートとなり、いよいよ巡礼も後半。より一層身を入れて無事に歩き遍路を貫徹させる気持ちでいっぱいです。
そして今回は、予定した以上に進捗できたこと、同宿の方、地元の方と交流できたこと、そして何より無事に行って帰ってこられたこと等々に感謝し、そして今後に向けてもやはり感謝の気持ちを忘れず、他人様との出会いを大切に、かつ適度の緊張感を保ちつつ四国巡礼を堪能したい、そんなふうに思っている次第です。