さて、なんだかんだ言っているうちに今年も夕暮れが早くなり、枯れ葉は冷たい風に舞い、煌びやかな栗須磨主釣位がそこらじゅうに出現する季節となりました。
一年を振り返るにはまだ早いけど、今年は年初めから11月までに約32冊の本を読んでいました。
後から冊数を確認したり、忘れかけた内容や感想を振り返ったり出来るのが書評を残す利点ですね。それなりに時間はかかりますが、頭の体操にもなります。
来年は、電子ブック金$(amazonのKindle、って説明入れてどないすんねん)導入の効果で年間40冊を越えるかもしれません。多読、乱読ではなく、精読、熟読を心がけようと思います。
ある出来事から刑事を辞めた須賀原が働くレンタルビデオ店には、街を徘徊する死者が見えてしまうことで両親にすら理解されずに苦しむ中学生明生が出入りしていた。
彼に触れられたときだけ同じ能力を発現する須賀原は、この世に執着せざるを得ない死者たちが抱える心情を明生と共に解きほぐしにかかり、次第に自らの辛い過去とも向き合うようになり、明生も次第に心を開き始める。
各章に登場してくる死者は、平たく言えばそれぞれの事情からこの世に未練が残ってしまった人たち(犬もいるが)だ。その悩みを二人が特異なスキルをもって解決に導き、然るべき世界に戻る手助けをするという心動かされるストーリーではあるが、須賀原の過剰とも思える贖罪心や、明生の妙に大人びた言動が鼻につき、いまひとつ感情移入できなかった。
もっと言ってしまうと、ときどき誰のセリフや想いなのか分かり難い文章や、前後からして難しすぎる表現や形容詞が出てきたりして、せっかくの話の流れが途切れてしまうのが残念だ。
静岡の高校生による天竜文学賞に選ばれ、ネット上の評価も割と高めだが、案外読み手を選ぶ小説のようだ。
著者は本書で、釈迦の拓いた仏教(以下、「仏教」と略す)の中でも、日本では具体的に語られることが少ない「悟り」を、仏教思想のゼロポイントと位置づけて真正面から取扱う。
本書を読了して、「悟りに主眼を置いた仏教」というものをかなり知りたかったことに気付いた。・・・とは言っても、ハイレベルなテーラワーダ系の仏教思想や概念、用語がビシバシ出てくるので、よく分かったとは間違っても言えないが、著者が言わんとすることはおぼろげながら理解できた。
私なりに得られたものをまとめてみたい。
釈迦の仏教では、
①人は誰も望まずして現世に生まれ、煩悩や執着に起因する苦(不満足)に満ちた今生を生き、次第に老いて病に臥せりやがては死んで行く。
②死した後も輪廻の輪の中に居る限りは来世に転生し、再び三たび四たびと未来永劫にわたって苦に満ちた生をおくることになる。
④斯様な永遠の苦に満ちた世界から抜け出す道はただひとつ。出家して仏の教えを実践、修行し悟りを得ることだ。さすれば輪廻の輪から解脱できるであろう。
⑤解脱の後には涅槃の境地があり、一切の苦から解放され真の安らぎを得ることができる。
以上のように教えている。苦に満ちた生から解放されたくば、一切の持ち物や欲を捨てて出家して僧団(サンガ)に加わり、生産活動も行わず托鉢しながら修行せよ、という教えだ。要するに、ニートになってさらに性欲をも捨てひたすら悟りを目指せ!というのだから厳しい。
著者は本書の中で、「仏の教えを実践し悟りを得る方法論は、実は上座部仏教の世界では具体的に確立されていて、現在でもそれを実践することで実地に体験している人がいる」と語る。
私の中では、(1)大乗仏教各宗派の宗祖は、釈迦の教えの頂点である悟りには到達していたのか?、(2)現世で「悟りを啓いた人」が名乗り出ないのはなぜか?、(3)そもそも存在しないからではないのか?、といった悟りに関する疑問がいまだクリアにはならず、それをシステマチックなもの、到達への道は開かれているものとする著者の言説はきわめて新鮮、且つかなり驚いた。
発生から2500年の間に、たくさんの解釈や部派、宗派に枝分かれした仏教だが、私自身が興味と関心を持ち勉強しようとする方向は、今のところ上座部系、すなわち仏教の源流側であることを本書を読んで改めて認識した。
・・・そうかと言って、日本のテーラワーダにはちょっと抵抗があるのだが…
サラダドレッシングなどを製造販売する食品会社のフリージア。トップが創業者から銀行出身の雇われ社長に代わり、数値至上主義の気配を感じ取った社員の士気は一気に下がる。
左遷された若手の池田は、創業精神を胸に秘める元上司からビジネスやリーダーシップを学びながら、密かに同僚や若手社員を束ねて会社の再生を計り始める。
善悪二元論的な展開には、やや鼻白むこともあったが、会社、組織、働き甲斐などの観点からストレートにまとめられたサクセスストーリーにしては面白い。
Wikipediaに「日本の経営者、経験を生かした「お仕事ドラマ」の方向で著作活動も…」とある著者の経歴。
そうか、実経験に基づいた現実味のあるストーリーだから、現役時代に読んでいたらもっと深い感想になったかもしれないな。
ジュニア向けの短編である。
自分の弟が欲しい一人っ子の健太は、レンタル店でオーダーした弟ロボット「ツトム」を家に連れて帰る。最初はかわいいツトムだったが、両親の扱いの違いなどから次第に憎らしい存在になり、とうとう無理やり腕を引っ張って店に返してしまう。家に戻った健太は、母親から「実はあなたはロボット」と告げられ店に返される夢を見て、ツトムへのひどい仕打ち、悲しい思いをさせたことにようやく気付く。
人を思いやる心、人の身になって考える優しさを教えてくれる良い話だ。大人が読んでも胸に沁みるものがある。たまには童話も良いな~と思った。