伊坂幸太郎さんの短編集「逆ソクラテス」が好きです。
中でも特に「スロウではない」が好きなのだけど、理由はうまく説明できないので省略するとして、主人公である小学5年生の司と友達の悠太が時折始めるある「ごっこ遊び」を真似てショートストーリーを書いてみます。
なお、本稿は実在の個人、団体、企業などとは一切関係ありません。
「ある物件が暗礁に乗り上げています」
「金が絡んでいるのか」
「それもあると思います」
「無いものねだりは無しだとマネージャーに伝えろ」
「偉い人の前で啖呵を切る勇気はありせん」
「フム……彼らは優秀か」
「そう信じています」
「では」
「はい」
「沙汰のあるまで気長に待て」
「例の仕事がまったく進まずイライラしています」
「問題はどこにある」
「風呂敷の広げ過ぎです」
「お花畑から戻って来いとひな壇の連中に言え」
「外様の私に出番はありません」
「不満は溜めるな。判断が鈍る」
「酒を飲んで気分を変えています」
「お気に入りは何だ」
「最近は白ワインです」
「赤にしろ。ポリフェノールで血圧が下がる」
「ようやく物件が前に進み始めました」
「辛抱した甲斐があったな」
「思っていたのとは違う方向ですが」
「気に入らないのか」
「ゴールポストを動かすのは違うと思います」
「事業の理念はどこにある」
「個人にあっても組織には無いようです」
「経営者はどうだ」
「あたふたしているように感じます」
「なぜそうなる」
「プロではないからです」
「フム……では」
「はい」
「消せ」
「転職を考えています」
「居づらいのか」
「いいえ経営者が、もとい、仕事が片付きました」
「儂に遠慮はするな、去るものは追わん」
「代わりが問題です」
「そこは儂の領分だ」
「前から楽をしていただきたいと思っていました」
「殊勝なことを」
「多くの人を救って来られました」
「頼られればな。世の中理不尽なことが多過ぎる」
「辞め時は自分では決めづらいものです」
「何を言いたい」
「あとは私に任せて窓の外をご覧ください」
「……」
「良い旅を、ドン・ヴィトー・コルレオーネ」
おしまい