3月を目の前にして、ようやく春を感じさせる陽気がやって来ました。
次の書評をアップする1か月先には、日本では桜が咲き杉花粉の飛散が最盛期に入っているでしょう。
「来年のことを言えば鬼が笑う」とは将来のことは分からない例えですが、1時間先でさえ読めない事態が遥か西の方の肥沃な国土を持つ国で起き現在も進行中です。
今から1か月後のウクライナは…………
彼の国に笑顔が戻ることを強く願います。
洋食屋の見習い料理人藤丸陽太が恋をした本村紗英は、三度の飯より植物の研究が好きな大学院生。人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!?
(ネタバレ注意)
上巻の早い段階で藤丸がふられてカックンとなり、次の展開を期待しながら読み進めるも波乱は起こらない。視点は本村の研究者目線へと変わり、T大松田研での植物研究の日々が淡々と描かれる。
研究の描写の詳しさはすごい。相当勉強したと思うが、アカデミックになり過ぎず読者目線を忘れないところはさすがだ。
でもさすがに飽きてきて、こりゃ途中棄権必至かと覚悟を決め読み進めると、次第に波乱も起こらず悪人も出てこない平板なストーリーが心地よくなる。気が付けば下巻を読了していた。
ヤマがないわけではない。一見死神のような松田教授の秘密、本村が自身の研究でやっちゃったことなど盛り上がりがあるにはあるが、それはおまけのようなものだ。
小説のテーマは、藤丸のこのセリフにある。
「植物のことを知りたいと願う本村さんも、この教室にいるひとたちから知りたいと願われてる植物も、みんなおなじだ。同じように、愛ある世界を生きてる。俺はそう思ったっすけど、ちがうっすか?」
藤丸くん、君もだよ……
感情を持たない植物に恋をしそこに進むべき道を見出した研究女子と料理で人を喜ばせることに生きがいを見つけた実直で愛嬌のある若者。
そんな二人の愛あるストーリーに「愛なき世界」と名付ける著者は相当なひねくれものだ。