パラリンピックが無事に終わり、コロナ第5波が専門家も不思議がる急激な収束を見せ、LDP総裁選が落ち着くところに落ち着いた……そんな9月でした。
実は最近、Kindleを持ち歩くのをやめて、iPhoneで読書しています。
Amazonで購入した電子ブックは、Kindleだけでなくモバイルデバイスでもパソコンでも読めることに最近になって気づきましてね。目から鱗でした(汗)。
荷物が減るし、自動改札にかざしたiPhoneでKindleアプリを立ち上げて、そのまま読書に移行できるは快適そのものです。
なんでもっと早く気が付かなかったのか大いに呆れ、iPhone8から画面の大きな高級機種への買い替えを夢見る、そんな昨今なのでございます(大汗)。
アル中で恐怖の概念が薄い現役のヤクザ及川頼也。検査の結果、「あなたの脳には良心が存在しない」と精神科の医師桐島から指摘を受ける。
対立抗争のほとぼりを冷ますためカシラの命により桐島の本拠地である脳科学研究所に通い始めた及川は、治療と称して入所者に行われている一連のプログラムに疑問を持ち始めた……
読み終えた感想は、「恐ろしい」のち「切ない」だ。
前半、この作家にしては珍しく暴力的なシーンが続く。恐怖心や他人への共感を知らない及川が自分のシマを守るため反抗分子をシメまくる場面は途轍もなく恐ろしい。
アル中の治療を入り口に脳の改善実験に巻き込まれた及川は、病院で別の疾患の治療を受けている幼い梨帆とその母親に出会う。
このあたりから及川は徐々に人間味を取り戻し始めるが、絶対悪のような存在だった彼が病気を抱えた少女に少しずつ、本当に少しずつ心を開いて行く様子は、後半の展開が概ね想像できるだけに読み進むほど切なさが膨らむ。
終盤は、冒頭からの伏線である二度目の原発事故や自衛隊の戦闘との関係性を明らかにしながらジェットコースター感覚で進む。さすが「神様からひと言」や「ユニバーサル広告社シリーズ」の作者。エンタメ性の中にも一本筋を通すのは忘れない。
切ないラストはバラせないが、惜しかったのは長さの割に及川が夢想したシーンがどこまで現実になったのかが描かれなかったこと。
全般に深みが足らないのは多作故か。及川と梨帆と母親で一緒に虹を見るシーンで涙活したかった。
信頼する作家だけに僭越ながら求めるレベルは高い。星4個は賞賛と解釈願いたい。
2ヶ月前に読んだ「アイネクライネナハトムジーク」に収めても座りがいい短編だ。実はつながっているのだが、それはナイショ。
父の怪しげな行動を偶然見てしまった”わたし”は、実家の母に相談しに来て、逆に引きこもり中の弟から母親に関する疑惑を知らされる。疑心暗鬼のまま意を決してある行動に出た”わたし”は、知っているようで知らなかった父と母の本音を垣間見ることになる。
お互いの理解と認識、不満が巡り巡って絡み合って落ち着くところに落ち着くのは家族のあるあるだ。まったく家族ってやつは……と苦笑する伊坂さんの家族観が洒落た会話と撒かれた伏線の合間から読み取れて楽しい。
「アイネ……」と同じテーマを本編では母親に「出会った経緯よりも、その後の関係のほうが大事でしょ」と語らせ、ラストで弟の近未来がほんわりと暗示されて終わる。
シンプルな文章の短編で、よくぞここまで読んで楽しく幸せな気持ちにさせてくれるものだ……、と関心しきり。