オリパラのパラは進行中、コロナも一向に衰える気配が見えず、月末なのに締まる感じがまったくしません。
船は出て行く煙は残る、ならぬ夏は出ていく暑さと憂いは残る……、そんな洒落にもならない字余りな前フリで今月の書評を始めます(笑)。
8月は2冊。
休日数と読書量は比例しない、の典型だなこりゃ。
親との確執を断ち切るため、生まれ育った長野県を飛び出し海のある神奈川県久里浜に落ち着いた佐々井夫婦。
専業主婦の冬乃は、夫の勤務先がブラック企業で後輩の川崎と共に身を削るような勤め人生活を送るのを静かに見守っていた。
そんなある日、妹の菫にカフェを経営しないかと誘われ、平凡だった冬乃の日常は俄に動き始める。
各章にタイトルがないし、語り手と時制が都度々々変わるので最初は戸惑った。
話の中心になるのは冬乃と川崎で、それぞれ思うようにならないカフェ経営や自分を見失うようなサラリーマン生活の中で、「これじゃいけない、なんとかしなければ……」との思いを徐々に膨らませる。
そして、何事も考え方や向き合い方を少し変えれば違う世界が見えてくる、自分の道は自分の手で切り拓くことが出来る、といったある意味普遍的なテーマを二人に重ねて物語はソフトに終わる。
結果的に読みたい方向性ではなかったが、深い意義を汲み取れる人もいるであろう小説と感じた。
就職情報誌の編集者を務める梨央は仕事と恋の両方に行き詰まり、酔っ払った勢いで登った工事現場の足場から降りられなくなったところを鳶職の徹男に助けられ一目惚れする。
一方、親から任せられて街の工務店の社長になった郷子は、会社の自然消滅を目論んで行ったリストラが裏目に出てますます会社経営の深みにはまり込んでいた。
梨央は、徹男にさらに接近するため建設業界への転職を目指し、郷子はリストラの穴埋めに意欲のある若者を求める。
そうして出会ったほぼ建設業務素人の二人は、途轍もなく波の高い「住まいを造る仕事」の大海原に乗り出すことになった。
想像していた内容と違って面白かった。
男社会が当たり前の建設業界で女性が頑張る話だが、女性作家ながら(最近一番ダメな言い方)建設現場の裏事情や職人の気持ちをよく勉強されていて、そちら方面に関わりがある身としては何の抵抗もなく、むしろ情報の質、量ともに適切で読後感はよかった。
最後は、建設工事らしく節目の宴の場面に掛けて梨央の恋の行方が暗示されるが、実のところこの話の本当の主人公は人ではなく「人の住まい」と「住まいを造る仕事」だ。
まさにタイトルのとおり「食う寝るところ住むところ」なのである。
その深くて難しくて面白い仕事を男に独占さておくのは女の沽券にかかわる、それを言いたかったのではなかろうかと思った。