早いもので今年も残すところ1ヶ月余りになりました。
この11月は・・・
良いこと、そうでもないこと、抗いようのないことほか、いろいろな出来事が目の前を通り過ぎて行きます。
この流れは、2020年最後の月にどこへ向かうのでしょうか。
さて、今月は4冊。
バタバタ感があった割に読書は進みました。
釧路湿原を見下ろす高台にひっそりと建つホテルローヤル。
そこに関わる男女の人間模様を描く直木賞受賞作。第一話から最終話へと時間を遡りながら、道東のラブホテルの興隆を醒めた目で俯瞰する。
○○受賞作だけでは興味が向かなかったが、テレビで見かけた桜木紫乃さんにインパクトを受けて手に取った。
率直に言ってしまうと、私の読みたい本ではなかった。
直木賞は「新進・中堅作家によるエンターテイメント作品が対象」(日本文学振興会)とのことだが、残念ながらエンタメ性は感じられなかったし、そもそも文学性を評価できるような高尚な読み手でもない。
美人作家が書いたラブホテルの話というだけで本を選ぶとは不届き千万。この忸怩たる思いをバネに本読みの本筋に戻るとしよう。
モテ男の星野一彦は、行き先不明の「あのバス」でどこかへ連れて行かれる前に、同時進行で付き合っているの五人の恋人に別れを告げて回る。
付き添いは、髪は金髪、顔はハーフ、口調は893、体格はアブドラ・ザ・ブッチャーの超エキセントリックな女性繭美だ。
話が進むにつれ星野が抱える借金、バスの恐ろし気な行き先、突然現れる黒い集団、何から何まで破格な繭美の正体などなど、謎は深まるばかり。
五人に別れを告げ終えた星野に繭美はある提案をする。
星野は、どこに連れて行かれるかも分からないバスに乗るのか。それとも・・・
今まで読んだ伊坂作品とはだいぶ趣が違い、なにやら深遠なテーマの匂いがした。太宰治の「グッド・バイ」が下敷きだという。著者の源泉になっているのかもしれない。
主人公星野はいたって愛すべき人物だし、五人の恋人たちもそれぞれユニークかつ魅力的だ。ぶっ飛んでいる繭美も伊坂の小説には無くてはならない破天荒キャラではあるが、終盤で気が付けば愛しくなってくる。
そして謎は深まっても、いつものように読み進めるうち伏線は回収され、一番の大きな謎である繭美の正体が最後には明らかになり・・・、との淡い期待と想像は見事に外れ、謎は謎のままで終わり不思議な余韻が残った。
未完のまま絶筆となった「グッド・バイ」へのオマージュではあるまいが、そこに文学青年の深層を垣間見たような気もする。
でも幸太郎節は変わらない。いつものような満足感があったので星は5個とした。
元お笑い芸人、元引きこもりを自称する著者による抱腹絶倒のインド旅行記。もともとネット上で公開されていたものに加筆訂正して出版された。
いきなり私事で恐縮ですが、自宅にパソコンが来たのが2004年頃、自分用のPCを調達しブログを書き始めたのが2006年。
ちょうどその頃、ネット上でこの旅行記を発見してファンになり、断片的、散発的には読んでいた。今回初めて通読して、いま読んでもとても面白いと思った。
著者は、引きこもってゲームばかりしていたというものの、どっこい、行動的な人だし文才も大したものだ。
漢字と仮名だけでなく(笑)(汗)(号泣)などの記号(?)を多用する文体、漫才のようなノリとツッコミと落ちを地で行く文体は当時としては斬新で、ずいぶん影響を受けたし、今でも継続している。
早くからネットに馴染む文章のモデルを構築していた、ある意味先駆者なのだと思う。
本旅行記は、著者が20代半ばの時のもので、着の身着のままのローコストな旅行者が、インド人にいいように手玉に取られ翻弄され、その中で要領と駆け引きを覚え、次第に異国の旅行を楽しむようになる内容だ。
本書のタイトルは、当時の著者の気持ちを素直に表すものだろう。人懐っこいインド人に会いに行きたくなる。
衛生面や野良牛は勘弁だが(笑)
保険の営業職岡田修一は、大口顧客に契約解除され落ち込んでいたとき、すっと近寄ってきたタクシーに引き寄せられるように乗り込む。運転手は、修一のことを何から何まで知っており、そのうえ「人生の転機になる場所にお連れします」と言い出す。
半信半疑の修一は、メーターが逆回転するこのタクシーでどこに向かうのか。運転手は修一をどこへ導こうとしているのか・・・
前半で繰り返される人生訓のような話が説教臭く感じ、(失敗したかな?)と思ったが、後半は一気呵成に読み進めることができた。そして幸せな気持ちになった。
いつも上機嫌でいること、運は「良い、悪い」ではなく「貯めて、使うもの」、報われない努力はない等々、良い言葉が出てくる。
本筋には深く係わらないものと思っていた修一の母民子、上司の脇屋、妻優子、娘の夢果の大事な役割が現れる終盤の展開も秀逸。
位置づけとして深入りしたい作家ではないが、本作が一服の清涼剤だったことと、疲れたときに別の作品を手に取りたくなるのは間違えない。