足かけ3年がかりの私的な大仕事が、この5月半ばでようやく一区切りつきました。
気分的に余裕が出てきたので久しぶりに書評を書こうとしたら、一番気が張っていた先月は一冊も読んでいなかったことに気付き、逆に気を緩めすぎて寝込まないようにしないとな~、と考えている昨今であります。
さて、そんな中で読めたのは2冊。最近は両目とも霞むし疲れやすいし・・・。
やせ我慢してないでボチボチ老眼鏡を考えますか(汗)。
家裁調査官の陣内と武藤が、加害少年の抱える深い業と向き合う中で、彼らの辛い過去や抗いきれない背景事情を、時には調査官らしく、ときにはらしくなく、それぞれの思いやりを持って解きほぐして行く。
そう書くとシリアスな話みたいだが、あくまで読者目線で話を組み立てる著者は、この2作においても読み手に(この先どうなるの?)、(あれれ?)といった楽しみを提供してくれる。
両作でその騎手を務めるのが、ご存知陣内調査官である。超エキセントリックな彼の言動に、どちらかといえば控え目な武藤もときには半分キレ気味のツッコミを入れるが、真意をなかなか表に出さない陣内に、「まあな」とあっさりかわされる。
ストーリーや面白さは、読んでもらえば充分分かるので、個人的に(いいな~)と思った一節を引用しておく。
陣内、武藤とチームを組むクールな木更津安奈調査官を評して…
「・・・は、「そこまでする必要がありますか?」が口癖の人物であった。世の中の大半のことは、「そこまでする必要がある」とは言い難く、それを言い出すのなら古代エジプトの建築物も科学の進歩も否定されかねない」
武藤と木更津が加害少年の親を話題にする場面で…
「立派な親とは、立派な時代が存在しないのと同様に存在しない。ただ、庇護者、障害物、反面教師といった親の存在は、いるのといないのではだいぶ違う」
いずれも著者の一人語りである。
著者は、文学寄りとなることを潔しとせず、自らを「エンタメ作家」と言っているが、上記のような文学寄りのメッセージを内包するエンタメ小説が読めるなんて素敵ではないか。
長編「サブマリン」の一星減は、連作短編集「チルドレン」のあとに読んだから、やや冗長に感じただけでなんの問題もない。
ぜひ、2冊まとめて読んで、ハチャメチャでややこしくて面倒くさい陣内調査官の魅力に出会っていただきたい。