Categories: 本/書評

最近読んだ本_2022/09

暑い暑いと嘆いているうちに気がつけば道端に彼岸花が咲き、今日あたりはキンモクセイの香りが漂い始めていたりして…………

人の感覚とは関係なく季節は巡り、瑠璃色の地球は日々自転と公転を続けている、そんなことに想像が及ぶ昨今、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

さて、9月は5冊。

ここしばらくなかった出来高ですな。

たくさん読めばいいってもんではないが、これはこれで嬉しいことです。

 

 

伊坂幸太郎「魔王」★★★★☆

 会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、1人の男に近づいていった。
 5年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。

講談社BOOK倶楽部

 

伊坂幸太郎「モダンタイムス(上)(下)」★★★★★+★

 恐妻家のシステムエンジニア・渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚のもとを次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。

講談社BOOK倶楽部

 

「魔王」から5年後の「呼吸」。さらに50年後、いわゆる近未来の世界でSEとして普通に会社勤めする渡辺、五反田、大石の3人が、客先でシステム改良の仕事を進める中で途轍もなく恐ろしい目に遭う「モダンタイムス」。

闇の中に何かが居るあるいは有るが、その正体が分からない怖さだ。

そんなサスペンスと言っていい内容にSFやホラーの要素も盛り込まれているので読み出すと止まらない。絶対に続けて読むことをお勧めする。

 

岡本猛はいきなり現われ脅す。「勇気はあるか?」
五反田正臣は警告する。「見て見ぬふりも勇気だ」
渡辺拓海は言う。「勇気は実家に忘れてきました」
大石倉之助は訝る。「ちょっと異常な気がします」
井坂好太郎は嘯く。「人生は要約できねえんだよ」
渡辺佳代子は怒る。「善悪なんて、見る角度次第」
永嶋丈は語る。「本当の英雄になってみたかった」

講談社BOOK倶楽部

 

洒落た内容紹介でどれもこころ惹かれるが、私としてはこれだ。

― アリは賢くないが、コロニーは賢い。
― 人には良心があるが、人のコロニーに良心はない。

 

この世の中にはある普遍的な理屈があり、それに基づいた構造や事象は普通人に変えることはできない。だから何をやっても無駄だと考えるやつもいるが、俺は小さなことから初め、それを積み重ねる…………

本気かどうかはわからないが、伊坂氏は本作中そんなことを言っている。

 

個人的な3編の感想としては、作中のこの言葉を挙げたい。

― 人生は要約できないものだからね…………

 

そのとおりだと思った。

 

 

 

大崎善生「パイロット・フィッシュ」★★☆☆☆

かつての恋人から19年ぶりにかかってきた一本の電話。アダルト雑誌の編集長を務める山崎がこれまでに出会い、印象的な言葉を残して去っていった人々を追想しながら、優しさの限りない力を描いた青春小説。

KADOKAWA

 

 

本選びに迷うとamazon.comを見る。コメントが書評になっていて、五つ星評価が分かり易い。

本作は、いつか読んだ文庫本の解説に書名があり条件反射的に選んだので読了後にamazon.comを見た。

そして「?」と思った。予想外に高評価なのだ。

 

人はそれぞれ違う感性、価値感を持っているから本の感想も違って当たり前だが、本作は私にはほとんど響かなかった。

人の生き方、出会い、恋愛などが本作のテーマだが、時制が断りなく入れ替わったり、生々しい○ッ○ス描写にも困惑し(嫌いではないが時と場合による)、内容に集中できなかったこともある。

人の心のひだや揺れ動く気持ちを大切にし敏感に感じ取る読者には響く、そうでない者の心と記憶には残らない、そんな作品と勝手に解釈した。

 

 

 

佐藤多佳子「一瞬の風になれ 第一部 -イチニツイテ-」★★★☆☆

春野台高校陸上部、1年、神谷新二。スポーツ・テストで感じたあの疾走感……ただ、走りたい。天才的なスプリンター、幼なじみの連と入ったこの部活。

すげえ走りを俺にもいつか。デビュー戦はもうすぐだ。「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」。
青春陸上小説、第1部、スタート!

講談社BOOK倶楽部

 

高校生が部活の陸上部で頑張る話。

中学までサッカーを続け、高校入学を機に陸上に切り替えた神谷新二が一人称で練習を、試合を、天才的な兄とライバルを、そして心の葛藤を語る。

 

高一生の話し言葉で語られるストーリーは、題名どおり疾走感満点なのだが、正直言って私には合わなかった。

なぜってインドア系の人間にとって学生の運動部の人間模様や試合の緊張感など別世界でしかないし、いまさら興味を持てるはずもない。

 

また、ライトノベルの定義は不勉強だが、斜め読みでも追えるストーリーにある種の薬物のような危険を感じ、とにかく三部構成の第一部で挫折、することにした。

玄関を開けて中を窺った途端、違う匂いを感じ(こりゃいかん)とあわててドアを閉める…………そんな感じ。

 

リセットして次、行きます。

 

 

 

hideandseek

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