前回の書評からのたった一ヶ月の間に、気象上の異常事態が立て続けに起こりました。西日本豪雨とそれによる洪水や土砂災害、猛暑が続き東京でも39.0℃を記録、伊豆半島沖から西方向に進みこれまでの常識が通用しなかった台風12号・・・。
2年後のこの時期には、史上2度目の東京オリンピックが開催されます。もし同じような気候の中で行われるとすれば、はたして無事、かつ成功裏に終えることは出来るのでしょうか。とても気になりますね。
日本ばかりでなく世界各地でも豪雨や熱波などの異常気象が起きているそうです。あまりに無謀、無思慮な人間の行いに地球が悲鳴を上げ始めている、そう思うのは筆者だけではないでしょう。
さて、そんな7月でも書評は書くことができました。2作ですがどちらも中身の濃い作品でした。
冒頭であらすじをと思ったが、数行にまとめられるようなストーリーではないのでやめておく。されど、そこをあえて一言で表すなら、千年後のある日本人女性が語る「呪力」を獲得してしまった人類の呪われた歴史と憂鬱、とでもなろうか。その意味でタイトルは的を射ている。
本書では、A.C.クラーク「幼年期の終わり」やB.W.オルディス「地球の長い午後」を彷彿とさせるイメージやプロットが随所に感じられる。なので第29回日本SF大賞の受賞もまったく不思議ではないが、なんちゃって理系脳かつ往年のSF読みである私としては(これってファンタジーでは?)と思わざるを得なかった。
なぜなら、超自然的な数々のガジェット(呪力やら奇怪な動物達やら)の凄さは認めるのだが、それらに関する説明がやや物足らなかったり、説明は尽くされてもそこはかとなく文系の香りを感じたりしたからだ。
・バケネズミ誕生の秘密は語られるが、その他の奇怪な動物はいったいどこから来た?
・神栖66町の子供たちへの教えや、悪鬼、業魔封じが仏教、それも真言宗っぽいのはなぜ?
・1000年後の人類に関して日本以外の状況になぜ触れない?
等々、予想外の展開に手に汗握りながらも若干のストレスを感じながら読み進めることとなった。
とは言え、これだけ桁外れに異様な世界観、尋常ならざるストーリーを展開できる作家はそういない。約500ページ✕3冊の世界に浸り切ってほぼ一気読みしたので、読了後には、呪力を持った人間と異形の動物が跋扈する新世界の呪縛を逃れ現世に戻って来るために、作中に登場するサイコ・バスターが本気で欲しくなった。
本所深川一帯をあずかる岡っ引き回向院の茂七が、手下の権三、糸吉とともに町の人々の些細な、時には底の見えない相談に乗りながら次々と難事件を解決して行く人情味あふれる時代ミステリー。
何ごとにおいてもきっちり筋を通す一方、情けの深さも半端でない茂七親分の魅力が本書の大きな柱となっているが、もう一人欠かせないのが、富岡橋近くで丑三つ時まで店を開けている謎の稲荷寿司屋の親父だ。かれこれ10年以上前に初めて読んだ時から頭の隅に残っていた。
それがこのたびは、既刊に新たに三編を追加し〈完本〉と名打っての再発行と来れば、件の親父の正体がいよいよ明かされる、と期待するのが人情だ。手練の超人気作家は、それにどう答えたのか?
ネタバレはなしにして、代わりに本書で一番気に入った一節を引用しておく。
暖かな湯気と、食欲をそそる匂いに包まれた屋台は、冬の夜の海に輝く小さな灯台のようだ。集まった客たちは、船頭ひとりの小さな船である。舳先を寄せ合って、いっとき世間の荒波から逃れ、暖をとる
(”鬼は外”より)
旦那方、もしかしてお心が荒んでやしませんか?
そんなときにゃ臓腑に沁みますぜ、本書は。