雨、雨、雨の9月でした。ここに来てようやく秋の雲とサラッとした空気がやって来て、巡る季節を実感しています。
少し早い(かなり早い?)けど10月の書評。とりあえず3冊分だけど、月末に向けてあと2冊くらいは追加する・・・、つもりです。
- 高野和明「ジェノサイド」★★★★★
- いつもなら前段に寸止めのあらすじを書くが、本書は主な舞台が日本、アメリカ、アフリカ、ポルトガルの4か所、登場人物も白人、黒人、日本人、韓国人に加え特別な人も出て来るし、当然、ストーリー展開は重層的でとてもじゃないが簡単に要約できるものではないので今回は省略。
テーマは、(1)人類の進化、(2)親子の絆、(3)人間の本質は善か悪かの三点であり、それらにアクション、サスペンス、SFの要素をすべて入れ、医療技術、国際謀略、地域紛争を散りばめて練り上げたのがこの小説である。
さすがは直木賞候補作にして2012版このミス1位だけあって、複雑、壮大なストーリーにも関わらずプロット、文章構成に破綻はなく文庫2冊を一気に読ませる。こんな面白い小説に出会えて幸せだ。
- ひろさちや「ほんとうの宗教とは何か(青の巻)」★★★★☆
ひろさちや「ほんとうの宗教とは何か(白の巻)」★★★★☆ - 著者の言葉を借りれば日本人は「宗教音痴」だそうな。ウム、確かに。
四国巡礼を始めたことで仏教や宗教全般に興味が湧き手に取った。日本人にとっては非常に分かりにくく、ともすれば勘違いや変な思い込みをしがちな「宗教」というものをとても分かりやすく実例を織り交ぜながら教えてくれる。
青の巻で宗教全般を、白の巻で神道、仏教、キリスト教ほかの主要な宗教を解説している。
著者の本は初めてだが、本書は分かりやす過ぎてもっと深く知りたい欲求が湧くという点でそれぞれ星一つマイナスとした。前向きの減点とご理解ください。
【161012追記】
- 萩原浩「明日の記憶」★★★★☆
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大手広告代理店の営業部長佐伯は脂の乗り切った50歳。旧人類と自覚しつつも若手職員を束ねながらビックプロジェクトを牽引するが、ある日、物忘れや目眩の症状で訪ねた病院の医師から若年性アルツハイマーの宣告を受ける。
容赦なく進行する症状に震撼する佐伯と慈愛を持って必死に支え続ける妻枝実子。非情にも佐伯が佐伯でなくなる日は刻一刻と迫っていた。
その病の初期症状である物忘れ、人の名前が出てこない、約束をすっぽかす、メモに頼る等々は全て思い当たるので、途轍もなく身につまされる話ではある。途中から気が重くなって何度か読むのを止めようと思った。
よくよく考えれば、その病気の症状と加齢に伴うあれこれとは、時間軸上の違いだけではないのか。そう思えば結論はただ一つ。悔いのない日々を過ごすこと、懸命に生きることである。
すごく気が重くなったのでー2、生き方を再考させてくれたので+1、差し引きマイナス1星とした。
【161031追記】
- 道尾秀介「月と蟹」★★☆☆☆
- 直木賞受賞作につき期待して読み進めたが、あまりに平板的な展開に腰が砕けた。文学性で評価されたものとは思うが、個人的にはエンタテイメント性がないと耐えられない読者であることがとよく分かった。
- 米沢穂信「ボトルネック」★★★★☆
- 文学性とエンタテイメント性を兼ね備えた作品だと思った。反面、深すぎるテーマ、深すぎる結末にやや引き気味になったのでマイナス1星とした。
- 三浦しをん「木暮荘物語」★★★★★+★
- 木造のオンボロアパート木暮荘を巡る、ちょっとエキセントリックな住人たちの物語7編。電車の中で肩を揺らしたり、涙を我慢したりして、各編とも2度読みするほど味わい深い。2冊分楽しませてくれたので満点プラス1星。