今月は4冊!
何ヶ月ぶりだろう。素敵だ。
ノーブックノータリン、じゃなくてノーライフだ。
気が付くと殺風景な部屋にいた高校二年生の鐘松孝平。彼は横須賀にむかってバイクを飛ばしている最中に、トラックに幅寄せされ……その後の記憶はなかった。建物の外には他にも多くの人々がおり、それぞれ別の時代と場所から、「死者の町」と名付けられたこの地にたどり着いたという。彼らは探検隊を結成し、町の外に足を踏み出す。
一方、片思いの相手を亡くし自暴自棄になった大学生の佐伯逸輝は、藤沢市の砂浜を歩いていたところ奇妙な男に勧められクジを引くと――いつのまにか見知らぬ地に立ち、“10の願い”を叶えることができるスターボードという板を手渡された。佐伯は己の理想の世界を思い描き、異世界を駆け巡ってゆく……。
ある日突然、未知の世界に放り出され何でも望みを叶えてくれる「板」を渡される大学生。
戸惑いながらやがては己の思考で新しい世界を創造してゆく……
ファンタジーに分類される小説、それも「異世界転生チートもの」というジャンルらしい。
その意味するところはよく知らないが、いみじくも世代の隔たりを感じながら読んだ。
面白い小説ではある。
ときおりキャラクター造形の浅さや無理なプロットを感じるも最後までページを捲る手は止まらなかった。
ストーリーにパワーはある。
ただ、全体にコンピューターゲームやスマホ文化の影響を強く感じ、いつの間にか異世代の人が書いた小説というややマイナスの意識で読んでいる自分に気付く。
シリーズ2作目だったことは巻末の解説で知った。
世界観が共通しているだけでそれぞれ独立したストーリーとのことだが、第1作を読むかどうかは微妙。
スターボードの案内人プログラムであるサユリさんが「さあ、どうぞ」と手渡してくれれば別なんだが笑
巣鴨で六代続く糸問屋の主人を引退した徳兵衛が長年楽しみにしていた静かな隠居生活。いざ実現するとそれは実に退屈で刺激がなく、一月余りで飽きてしまう。
そこに訪ねて来た本家の孫千代太。数々の厄介事を持ち込むが、それは徳兵衛の奥底の熾火を燃え上がらせる風となり、事態は思いもよらぬ方向に転がり始める…………
実に面白く読めた。そして泣けた。
振り返れば二度目のすごろくで徳兵衛がやってのけたのは、孫に振り回されながらも振り出しの寺子屋から躾け、教育、職業指導、仕事の斡旋、果ては地域振興、社会福祉…………
一度目のすごろくは、老舗問屋を維持して次世代にバトンを渡して上がりのストイックなものだったが、二度目のそれは予想外の一大クリエイティブ絵巻すごろく。
初めのうちは嫌々の体だった本人も思いのほかやりがいを感じ、商売っ気も交えながらかなりハイになって上がりに向け疾走する。
読者のほうもわくわくドキドキ、そしてラストはほろり。
仕事も人生も、他人様に喜んでもらってなんぼのもん。
そこが琴線に触れた。
家族に疎まれ寒村の寺に預けられた武家の庶子・行之助は、手ひどい裏切りにあって村を捨てた。絶望から“無暁”と名を変え、ひょんなことから一緒になった万吉と江戸に向かう。
悶着をきっかけにやくざの冲辰一家の世話になることになった無暁と万吉――波瀾万丈の人生が始まる。
信じるものを見失った無暁が、最後にたどり着く圧倒的な境地とは?
冒頭から2/3ほどまで順調に読み進むも、無暁が八条島から戻り出羽三山に籠もるあたりで急ブレーキがかかりトトトっとなる。
この小説の核心は終盤1/3なのだと思うが、無暁の仏道へのモチベーションが最後まで掴めなかった。
和尚、あんたいったい何を求めているんだい?
陸奥に旅立つ無暁に兄は言う。
「現はせちがらいものだからな。清濁併せ呑む器量がなければ、修行も意味を成さぬわ」
感想を代弁してもらった。
最初にお父さんがいなくなって、次にお母さんもいなくなって、わたしの幸福な日々は終わりを告げた。すこしずつ心が死んでいくわたしに居場所をくれたのが文だった。それがどのような結末を迎えるかも知らないままに――。
だから十五年の時を経て彼と再会を果たし、わたしは再び願った。この願いを、きっと誰もが認めないだろう。周囲のひとびとの善意を打ち捨て、あるいは大切なひとさえも傷付けることになるかもしれない。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい――。
ロリコン、ストーカー、DV、デジタルタトゥーなどなど、縁遠いようで昨今は身近かもしれないものだらけの本作。
本屋大賞受賞作とは意外だった。
常識の危うさ、怖さ。普通と普通でないもの間に引かれる境界線の曖昧さ、そのあたりがテーマではなかろうか。
マイノリティの生き辛さが読み手に迫ってくる。もし近距離で付き合うことがあれば、人の器が試されるのだろう。