昨今、関東では本当に雨が多く、いつもの年とはずいぶん違う・・・、らしくない・・・、などと思っているうちにこの夏も終盤に入ってしまいました。
筆者的には、職場の夏休みを利用して四国の西側を巡礼して周り、折よく避暑ならぬ避雨ができたのでラッキー且つありがたいことでしたが、脳天を殴られるような強烈な日差しの欠乏に貧乏ゆすりをしながらストレスをためている方も多いのではないでしょうか。
さて、少し早いですが8月の書評をUPします。
この度の巡礼には仏教関係の本を持参して、たまたまコースの関係で公共交通機関の乗車・待ち時間に結構読み進めることができました。これも何かのご縁かもしれません。
- 浅田次郎「赤猫異聞」★★★★★
- 時は明治元年の暮れ。御維新というかつてない大きな時代の転換期である。
- 江戸の町を舐め尽くそうとする大火が伝馬町牢屋敷にも迫る中、曰く付きのお仙、繁松、七之氶を含む四百人の囚人が二十数年ぶりの”解き放ち”によって江戸の街に消えて行く。
- 三人は娑婆での因縁からそれぞれの意趣返しに走るが、その先々で思いもよらぬ状況に遭遇し呆然となる。その裏には、混乱した世の中にあっても人の世の業と国の将来を憂い、己が信念に基づきあくまで正義と筋を貫き通した牢役人達の大いなる思いがあった。
- 一巻完結の比較的短い小説ではあるが、私はこの作品に浅田文学の金字塔、最高峰を見た。もちろん全作品を読んだわけではないので甚だ僣越ではあるが、現時点においてはそう確信している。
- 五木寛之「仏教のこころ」(評価なし)
ダライ・ラマ/大谷幸三「ダライ・ラマ 般若心経を語る」(評価なし) - 仏教の勉強を再開すべく分かり易そうな2冊を手に取ってみたが、世界三大宗教のひとつである仏教の「こころ」がたやすく理解できるなら、坊さんや寺など存在しないだろう。
涅槃の境地に達するための八正道の実践も覚束ない凡人には、般若心経の理解すら怪しい。とはいえ、眠気を催しながらも読了できたことを進歩と捉え、巡礼を意義深くするにはさらにこの深みに分け入るしかないと再び思った。
とはいえ理解不足で評定するなどおこがましく星評価はなしとした。 - ケント・ギルバート「まだGHQの洗脳に縛られている日本人」★★★★★
- 著者は、戦後約7年にわたってGHQが日本に対して行ったWGIPという施策により、日本人と日本国は精神的、物理的に骨抜きにされ、今なお続くその呪縛は、現代日本に数々の歪を生じさせている、と訴える。
この本に書かれている今まで知らなかった日本と周辺諸国の過去、マスコミの偏向した報道姿勢の理由、そして日本と日本人に関する限りなく耳触りの良い話等々の全てを信じる勇気は、今の私にはない。
・・・がしかし、以前から個人的に(何かおかしい)、(何かが足らない)と感じていたことの解消に日本語の堪能なアメリカ人の著者は、数多くのヒントを与えてくれた。我々が間違って教えられたこと、意図的に教えてもらえなかったこと、無意識に目を瞑ってきたこと、延いては日本人として知らなければならないことがたくさんあると確信した。
日本が本当の意味で独立、自立するには、過去を正しく知り今置かれている状況を冷静に眺め、自分たちの頭で考え適宜適切に判断し行動できるようになる必要がある。本書は、歴史や世情に疎い私にもそんなことを考えさせてくれた。 - 百田直樹「戦争と平和」★★★★★
- 著者のノンフィクションは初めてだが、言語明瞭、論旨明快の趣は小説と全く変わらない。本書の主旨は、①戦略や兵器の比較から、日本人は戦争に向かない民族である、②「永遠のゼロ」で著者が語りたかったこと及び受けた批判、③現行憲法及びその9条で日本の平和は守れるのか、の3点。
上述したK.ギルバート氏の「まだGHQの・・・」の論旨と重なるところもあり、個人的な(何かがおかしい)、(何かが足らない)との我が国と日本人に対する疑問の氷解に力を貸してくれる本だった。
同じことを何度も書くが、もともとが疑り深い人間なので本書に書かれていることを全て信じるわけではない。がしかし、ひとつだけ確信しつつある。マスコミから流される情報にはかなり強めのバイアスとフィルターがかかっている。そういう前提で世の中を観る必要があるということ。
何をいまさら、と言うなかれ。このブログの筆者はその程度の知識と認識なのだ。それが日本人の正規分布のどこに位置するかはよく知ないし、また知りたくもない。 - 前川裕「クリーピー」★★★★☆
- 第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。一言で表すなら、「殺人ほか悪事なら何でもするサイコパスみたいなやつに翻弄される心理学者と刑事及びその関係者」という話。読んで面白いことは面白いし先が早く知りたくて、珍しく自宅で結構読んだ。
星ひとつ減は、登場人物やストーリー展開に共通する現実離れ感。詳しくは読んでもらいうしかないが、(そんな行動はないだろう)、(そんな偶然もないだろう)と感じさせる話の強引さが若干鼻についたため。