独自の視点でYouTubeのギター映像を紹介する「ギターの神様」シリーズ。
第12回は、2016年10月に61歳で亡くなったチュニジア出身のギタリスト兼作曲家、ローラン・ディアンス(Roland Dyens)の追悼特集です。
まず彼の代表作「リブラソナチネ」より、第3楽章Fuocoをお聞きください。
どんな時代のどんな作品にも似ていない独自の作風。それでいていたずらに自己陶酔に陥ることなくオーディエンスを強烈な緊張感と躍動感で圧倒するこの曲は、彼がその昔、大病で生死をさまよった時の「生命力」と「回復の喜び」をモチーフにしていると言われます。
あまりの力強さに、筆者はこの一曲でディアンスに打ちのめされフォロアーになりました。
ちなみにこの演奏で使われている楽器は、サウンドホールの装飾とヘッドの形からフランスのOlivier Fanton d’Andon氏の作と思われます。彼は、この楽器をよく使っていました。
次は、A.C.ジョビンのFelicidade。ディアンスはボサノバの名作にも独自の解釈と編曲で新しい風を吹き込みました。
ご存知、憂いをたたえたA.C.ジョビンの代表曲、「幸せはすぐに終わるけど、悲しみは永遠に続く」との嘆き節もディアンスの手にかかれば運命に抗う咆哮へと変わり、主客は逆転します。ギター弾きなら一度でいいからPresto Appassionatoで演奏したいと願う超絶技巧曲。
ウ~ン、シビれますな。
続いてジャズのスタンダードナンバー、A Night in Tunisia。ガレスビーの名曲をギター一本で。
一応、ナイロン弦のいわゆるクラシックギターを弾くギタリストに括られながらも、ジャズ、ラテン、民族音楽などを幅広く取り入れ、即興をも得意としたディアンス。
この動画を見ると、単なる楽器奏者の枠を超えて「パフォーマー」と言ってもよい多才ぶりですね。それも単に曲を再現するに留まらず、より緻密によりジャジーに再構成するセンスの源は、ルーツであるチュニジアの「血」なのでしょうか。
最後は、ディアンスの作品中、最もよく知られたTango en skai。
超有名曲だけにYouTubeにも様々な演奏がUPされる中で、最もタンゴらしく聴かせるのは言うまでもなく彼自身です。「まがいもののタンゴ」とも訳される題名が付けられていますが、心中は(どうだ、俺のタンゴは!)と常にドヤ顔だったのかもしれません。むしろそれを狙った彼らしい洒落っ気たっぷりのタイトルとも言えるでしょう。
以上、代表的な4曲を聴いていただきました。
出会って以来、神様と思ってフォローし続けたローラン・ディアンスが本当の「神様」になってしまいました。返す返すも残念です。
彼の新しい演奏や作品にはもう出会うことは出来ませんが、独自に築いた孤高と言ってもよい音楽世界が、末永く世界中で語り継がれ聴き継がれ、また弾き継がれることを願ってやみません。
改めて合掌。