夜遅く、自宅近くの下車駅で大きなバッグの脇にたたずむ質素な身なりの外国人をあなたは見かける。手にした地図と案内看板を行き来する彼の目と全身から立ち昇る不安オーラが気になって仕方がない。
あなたは、この駅周辺は詳しいし、仕事帰りなので家に帰るだけだ。外国から来て地理不案内の彼に今宵の宿の方向を教えるくらいなら簡単な会話で済むし、場合によっては連れて行ってあげてもいい。
一方で、自宅と反対方向だったら面倒くさい、おとなしそうに見えて実は危ない輩ってこともあり得る、でも日本人の印象UPには一役買いたい等々、善意のあなたは逡巡することだろう。
・・・先週末、筆者はそんな場面に遭遇しましてね。
その学生然としたやせ形白人男性が心底心細そうに見えたので、気持ちだけマルチリンガルの筆者は意を決して彼に声をかけました。
Excuse me, may I help you?
I’m a neighbor around here.
If you like, I’ll take you to your destination.
Could you show me the map?
実際には↑の言葉を発したわけではなく、彼に向けて表明した気持ちと態度の怪しげな英訳とご理解ください(大汗)。
最初引き気味だった彼も次第にこちらを無害なネィティブと判断したようで、持っていた地図を差出し「ここに行きたい」というようなことを言います。
渡された地図はすごくラフなものでしたが辛うじて行き先は解読でき、同時に筆者は(ン???)と思わず固まりました。
なぜなら彼が目指しているのは自宅のすぐ近所、隣家と言ってもいいようなところ。筆者の記憶では、そんなところに宿泊施設なんかありゃしません。
(まあいいや、友達んちにでも行くのだろう)とアバウトに解釈し彼を先導して歩き始めました。道々聞くと彼は英国の学生で、ロンドンからのフライトは20時間かかって大変だった、目的は観光だけど何も決めないで来た、みたいなことを言います。
そうこうしているうち目的地に近づくと、彼の方が先にその建物を見つけました。外塀に掲げられたアルファベットの表札、というか看板を指差し嬉しそうに笑います。筆者とっては単なる近所のお宅なので案内したこちらは半信半疑。
・・・はい、賢明な読者諸氏はもうお気づきですね。
そう、「ご近所さん」の一軒がいつの間にか民泊施設になっていたのです。よく見ると窓には普通の数以上の洗濯ピンチがぶら下がり、そこそこ大勢の人が集まっている様子が伺えます。
後刻、自宅のPCで確認してみると、そこは世界的な民泊仲介サイト「Airbnb」によるホスト施設と判明しました。そこそこ古いごく普通の民家で、かつては筆者の幼馴染が住んでいたのでひょっとすると代替わりして空き家になったのかもしれません。ちなみにGoogleMapには何の表示もありませんでした。
・・・ゲゲッ、知らない間にこんなところにこんなものが出現していたとは。
結果的に民泊のゲストだった英国の彼とは「Thanks a lot!」、「Good luck!」と握手を交わし別れましたが、この出来事は筆者にとってちょっとした驚きでした。ニュースなど報道で接するだけで自分には縁遠いものと思っていた「民泊」が、知らない間に身近なところに出現していて、そこを目指して外国から多くの旅行者が何のためらいもなくやって来ている、という現実。
Airbnb(エアビーアンドビー)。
Airbnbなどの民泊仲介サービスは新たな旅行のスタイルと世界で絶賛される一方で、現存の法律(旅館業法、建築基準法、消防法、衛生法など)を満たしていないという声や、周りの理解が進んでいないのが原因でトラブルが起こっております。
<!– エアログ http://airlog.jp/what-is-airbnb/ から引用 –>
ただでさえ訪日外国人が増えているところに3年後には東京オリンピックの開催も予定されています。そんな中で日本を訪れる観光客数は人口比や観光資源に比べればまだまだ少ないと聞くので、もっと増えた方が観光収入増にも繋がるし良いか、などと頭の中では単純に思います。
一方で、「民泊」の御旗の元、身近な住宅街の中に異質でよく分からないものが何の前触れもなく出現し、そこに見知らぬ人達、言葉の通じない人達が集まってくる不安。
以上のような新しい動きへの対応と住民の不安の解消は、やはり国や自治体の仕事になるのでしょうね。
これからどんどん増えるであろう「民泊」に対し宿を提供する人、泊まりに来る人、そして近隣の人それぞれに配慮し、かつ国益を損なうことのないバランスのとれた施策の実施を望みます。
※「民泊新法」が本年6月に成立し来年から施行されるそうです。
民泊の教科書(民泊新法(住宅宿泊事業法)とは)