老人ホームで遺伝子に思いを馳せる

 先日、天気の良い日にホームの母を車椅子で屋上に連れて行った時のこと。そこには既に職員さんに連れられた3人の女性(昔のお嬢さん、今はお婆さん)がいて、花壇に咲きそろうツツジ、シャクヤク、シバザクラなどを眺めていた。

 そのお三方のうちお二人は、車椅子から花や周囲の景色を楽しんでいたが、もうお一方のSさんは、藤棚の下で薫風に吹かれながら、なんと立位で軽やかに身体を動かしていた。

 職員さんの話によると、Sさんは大正7年生まれの97歳。同じ区内に質屋の娘として育ち、いまだに上下全て自分の歯であることが自慢で、以前に入居していた施設ではレクの時に張り切りすぎて腕を骨折したこともあるスーパーお婆ちゃんなんだそうな。

 そんなSさんは、ニコニコしながら私たちの話を聴いていた。

 しばらく日光浴をした後、お三方が先に階下に戻るとき、先導しようとする職員さんは、ごく自然にSさんに声を掛けた。

「じゃあ、お願いします」

 それに呼応してSさんは、これまたごく自然に1台の車椅子を押し始めた。因みに乗っているのは、昭和2年生まれの方。母と私は、車椅子を押して去って行くSさんのかくしゃくたる足取りを見送ったのである。

 母の自室に戻ってからフロア担当のIさんに今見てきたこと、そしてびっくりしたことを伝えると、「遺伝子レベルで造りが違うのだと思います」との冷静なコメントが返ってきた。そのコメントがすごく自然に私の中に入って来たのは言うまでもない。

 遺伝子とは、すごい違いを生むものなり。
 (Sさんは、そう信じ込ませるようなオーラを放つ方でした)

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