バーでシングルモルト

日々流転的備忘録

 突然ですが,昔からBARにはちょっとした憧れを持っていまして,薄暗いカウンターでひとり,眉間に皺を寄せシングルモルトを傾ける…,なんて図にグッと来てしまうのです。

 しかし,BARとは一般に,入り難い酒場の代名詞。個人的にも,なかなか,ひとりで入る勇気は出ません。

 それでも時と場合によっては・・・。

 ということで,私の好きな「タイ王国」と「シングルモルト」,そして「BAR」で三題噺を書いてみました。

 時は西暦2000年12月31日。20世紀最後の日。場所はタイ王国の首都バンコク。

 当時,私は仕事の関係でタイ王国の首都,バンコク市内のサイアムに赴任していました。仕事をしている昼間はさて置いて,自由時間である夜と休日は,この歴史と文化と観光の町で,安い物価の恩恵を受けながら,優雅な単身生活を満喫していました。

 丁度,季節は乾期。南国と言えども空気はカラッと爽やか。街中がクリスマスと新年を祝うための華やかなイルミネーションで飾られる中,新世紀を迎えるイベントがバンコクの中心街で開かれ,打ち上げ花火も上がると聞き,一緒に赴任していた同僚Aと見に行くことにしました。

 イベントは夜11時頃からと聞いていたので,Aとビールを飲みながらゆっくり食事をして,それでもまだ時間が早かったので,新世紀の前祝いだし,新年の休暇中だし,ちょっと贅沢に高級ホテルのBarでも行くか,ということになり,五つ星ホテルである「プラザアテネ」のBAR「パンサック」に雪崩れ込みました。

 ほの暗いカウンターで,Aは何とやらのカクテルをオーダー。私は,ちょっと渋目にウィスキーを,と思いメニューを見ると,シーバースだのバランタインだの,どこにでもあるブレンドが並ぶ中,一番下に聞いたこともない「マッカラン」というのがあります。バーテンダーに「どんな酒?」聞くと,「シングルモルトです」と説明してくれました。

 では,ものは試しとオーダーし,そして一口含んで驚きました。

 ウィスキーとは思えないほど甘いのです。それが喉に何の抵抗もなく入ってきます。刺激的な部分が全くありません。多分それが私のシングルモルト初体験でしょう。

 ウィスキーに対する固定観念が180度,変わってしまいました。

 驚きのあまり,「騙されたと思って飲んで見みろ」とグラスをAに渡すと,「これはウィスキーじゃない!」と言いつつも,いたく気に入った様子でした。

 バンコクで新世紀を迎えた後,私は,2001年3月末,薄ら寒い春先の日本に一人で帰国しました。

 話は少し戻りますが,件の同僚Aは,私に先立ってバンコクに赴任し,私よりも後から帰国することになっていました。そのため,私の住まいの手配から帰国後の後始末まで,同じサービスアパートに住んでいたこともあり,何くれとなく世話を焼いてくれ,非常に感謝していたのでした。

 そこで帰国する前に何か礼をしたいと考え,ふと思いついたのが,二人して嵌ってしまった「マッカラン」でした。

 シングルモルトウィスキーは,日本であれば,いとも簡単に手に入れることができます。でも,いくらバンコクが東南アジアの大都会といっても,やはりTOKYOとは事情が違いました。

 街中の酒屋はもちろん,デパートで聞いても,普通のタイ人はシングルモルトなど飲まないらしく,そんな酒は知らないと首を横に振るばかり。ならば飲ませてるところで売ってもらえばいいじゃん,と単純に考え,例の「パンサック」に行きバーテンダーに事情を話したところ,「グラスでは飲ませるが,ボトルを売ることはできない!」ときっぱり断られてしまいました。でもボトルは目の前のラックにあります。

 諦めがつかないまま,無駄足と思いつつも毎日通ってみることにしました。行くたびに「ボトルを売ってくれ!」では嫌われますから,マッカランを1杯,2杯やって帰ってきます。

 そして1週間目頃だったでしょうか。

 いつもと同じように飲んでいると,事情を知っている女性バーテンダーが「ちょっと待っていて下さい。」と奥に引っ込みました。暫くして「マネージャーのOKが出たので,ニューボトルが入ったら連絡しますね。」とのこと。

 ワオォ!

 そして連絡を貰った日に,取りに行って驚いたのは,持ち帰り用に素敵なラッピングまでしてありました。しかも,タイ人のラッピングセンスは日本人の数段上を行く品の良さでした。

 ヤッタァー!

 BAR「パンサック」に,融通効きまくりのタイ人に,そしてシングルモルトに,乾杯!

 ということで,マッカランを彼女(あっ,因みに同僚Aはうら若き女性でした。最初に説明した方が解りやすかったかもしれませんね。)にプレゼントし,まだ桜のつぼみも固い日本へ無事に帰国することが出来ましたとさ。めでたしめでたし。

2件のコメント

  1. はじめまして。
    思い出のお酒をプレゼントされるって、すごく素敵ですね。
    それにしてもバンコクにこんなイイ感じのBarがあるとは。
    今もまだあるのならば、行ってみたいです^^
    ウイスキー専門のブログポータルサイトをOPENしました。
    ぜひ遊びにいらして下さい。
    ウスケバ http://blog.usukeba.com/

  2. hideandseek

    usukebaさん,コメントありがとうございます。
    思い出はしまっておこうと思っていましたが,ブログの話題に
    行き詰まり,やむを得ず書いてしまいました。(笑)
    ホテルプラザアテネは今でもありますので,機会がありましたら
    お訪ねください。ジャズのライブなんかもやってましたよ。
    シングルモルトはいろいろ試してみたいと思っていますので,
    貴サイトはとても参考になります。ありがとうございました。

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